NEW PRODUCT
クラシシズムを追求した2本のニューモデル
2019年から新作発表の場を、独自開催のロードショー形式に切り替えたモリッツ・グロスマン。その最終開催地となったロンドンで7月にお披露目された新作。懐中時計に範を取ったオールドロゴがあしらわれている。手巻き(Cal.100.2)。26石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRG(直径41.0mm、厚さ11.65mm)。440万円。
プロダクトラインの整理と再統合を積極的に進める近年のモリッツ・グロスマン。これにより、既存ラインナップのほとんどが「ベヌー」か「テフヌート」の2ラインに集約されることになった。ニューモデルで注目したいのは、ベヌーラインの“ヘリテージモデル”だ。その1本目は、ペーター・マテスが開発を手掛けた「パワーリザーブ・ヴィンテージ」。ムーブメント自体はCal.100.2のアレンジバージョンだが、ダイアルや針の造形が一新されている。スレンダーなフォントを用いたローマンインデックスや、モリッツ・グロスマン史上で最も細い針の造形は「ハマティック」にも通じるが、注目したいのはブランドロゴ。19世紀のオリジナルグロスマンが用いていた書体をほぼそのまま採用しているのだ。5分おきに配される青い菱形のドットも、当時の懐中時計がクォーターポジションに配していた意匠を忠実になぞっている。これらに合わせて、パワーリザーブインジケーターのディスクも青色に変更されている。
ムーブメント設計で面白いのは、初のレクタンギュラーモデルとなった「コーナーストーン」だ。こちらもベヌーラインのヘリテージという位置付けだが、Cal.102.3というナンバーからも類推できる通り、ムーブメント自体はテフヌート系列の派生型だ。開発を手掛けたのはマイク・フォンデアブルグで、Cal.102系から輪列や調速脱進機などを流用しつつ、端正な角型ムーブメントに仕立てている。目を引くのはムーブメントの半分を占める巨大な香箱だ。20mmのムーブメント幅に対して、香箱径は12.5mm。パワーリザーブは約60時間に延長されている。ダイアルセンターに時分針を置き、スモールセコンドの配置を適切にするため2番車センター、4番車オフセットとされており、秒針の駆動は秒カナを介したインダイレクト方式。巨大な2/3プレートは、同社らしいポストで支持される。これは輪列の縦アガキを調整しやすくするための設計だが、“礎石”をイメージしたモデル名の由来にもなっているようだ。
初の角型時計。サイドステップを設けたケース形状は、1940年代のグラスヒュッテ製腕時計から着想を得ている。製品版の香箱は、Cal.102系のジュエルドバレルから、信頼性の高いCal.100系と同仕様に変更された。手巻き(Cal.102.3)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWG(縦46.6×横29.5mm、厚さ9.76mm)。350万円。
不動作角ゼロに限りなく近づいた独自のハンマーローター自動巻き
Original Automatic Mechanism
小径薄型のテフヌート用輪列をベースとした、モリッツ・グロスマン初の自動巻きモデル。独自のハンマーローターは、ムーブメントの造形美を隠さないための配慮だったが、驚くべき巻き上げ効率も実現してみせた。自動巻き(Cal.106.0)。38石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRG(直径41.0mm、厚さ11.35mm)。予価550万円。
筆者の知る限り、新生モリッツ・グロスマンの歴史の中で最も難産だったモデルのファーストデリバリーが、いよいよ間近に迫ってきた。初代の設計主任だったイェンス・シュナイダーが基礎メカニズムの構想を練り上げ、その後を継いだ2代目設計主任のイェルン・ハイゼが製品化に向けてのリバイスを行った、ハンマーローター式自動巻きの「ハマティック」である。 開発の初期段階から、Cal.102系(テフヌート)の輪列と調速脱進機を流用していたハマティックは、プロトタイプが完成した時点で、ムーブメントの直径31.6mm、厚さ4.1mmに収まっていた。それを現行ベヌーラインが使っている41mmケースに搭載するためには、ムーブメントリングが必要なほどだった。製品版ではムーブメントの直径36.4mm、厚さ5.15mmまで拡大されており、キドメも2カ所から3カ所に増やされた。製品版での改良点は、ケースサイズに合わせた大径化が主眼だったのだ。
ハマティックの巻き上げ機構は、ハンマーローターの首振りに合わせて動く2本のラチェット式の巻き上げ爪が、2枚の巻き上げ車を押す“ダブルプッシュ式”の両方向自動巻き。常に両方の爪が巻き上げ車に噛み合っており、プル方向の力が加わった時にだけ爪が外れる。この方式の利点は、不動作角が限りなくゼロになることだ。一般的なリバーサー式の両方向巻き上げでは、実際にリバーサーが効き始めるまでに30〜80°の不動作角が生じてしまう。巻き上げ方向に爪が噛み合うタイムラグこそが不動作角の正体であり、常時噛み合い式のハマティックの場合は、理論的には不動作角がゼロとなる。もっともコハゼが効くまでに巻き上げた分は解けてしまうのだが、それを差し引いても、実際の不動作角は5°以下となるようだ。内部構造で変化したのは、巻き上げ車と角穴車をつなぐ減速輪列のレートだ。プロトタイプの30:1に対して、製品版は27:1。これも大径化に伴うバランス調整の意味合いが大きいが、若干だが巻き上げスピードも向上している。