モンブラン2020年の新作はザ・旅時計!「1858 オートマティック 24H」

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2020.05.02

紆余曲折を経て、ようやく2020年の新作が見られるようになった。各ブランドの注目したい1本をピックアップして紹介していく。今回はモンブランの「モンブラン 1858 オートマティック 24H」だ。

広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)


24時間時計久々の思い切った新作

どうでもいい話をすると、筆者はかなりの24時間時計好きで、結構買ってきたつもりだ。もっとも、まったく需要がないようで、現行品で探すのはほぼ不可能になった。唯一、気を吐いているのはグライシンで、他に生産しているのはポレオット(パリョート)、そしてボストークぐらいだろう。かつて魅力的な24時間時計を作っていたロンジンやブライトリングは、非常に残念なことに生産を止めてしまった。もっとも24時間時計なんて、買う人いないけどね。


1858 オートマティック24H

実にケシカランたたずまいを見せる「1858 オートマティック 24H」。全面、24時間時計マニアが大喜びするディテールに満ちている。なおトップ写真と違って見えるのは、夜光塗料で描いた地球が光っていないため。ストラップは肉厚のNATOを合わせる。自動巻き(Cal. MB 24.20)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS×ブロンズ合金(直径42mm、厚さ11.2mm)。10気圧防水。予価33万円(税抜)

 24時間時計というのは案外難しいもので、ちゃんと作らないと時間は見づらいし、汎用エボーシュを改造したものは、しばしば指針ずれを起こす。ブライトリング「コスモノート」やジン「903」が載せたレマニアはさすがに素晴らしい表示精度を誇ったが、ユニタス6497改(怪かもしれない)を載せたクロノスイス「タイムマスター 24H」には残念ながら指針ズレがあった。24時間経つと、時針と分針にわずかながらズレが生じたのである。この時計は紛れもない傑作だが、その点だけが唯一惜しかった。早々にディスコンになったはずだ。

 そんな筆者のツボを刺激したのが、2020年にモンブランが発表した「1858 オートマティック 24H」である。これは干場さんの表現を借りるなら「気絶」モノの時計で、全世界の24時間時計マニアは驚喜しているに違いない。

 機能は潔いほどシンプルである。文字盤の中心には、赤いスーパールミノバを配した時針があるのみ。これが1日1周して時間を示す。分や秒は分からないが、24時間時計マニアにとって、それはどうでもいいことなのである。針が24時間で1周するというだけで尊みがある。それに分針がないため、いまいましい指針ずれに悩まされることもない。

 リリースには次のように説明がある。「この赤い針は時間を示すだけでなく、羅針盤としても機能します。正確を期すために、コンパススケールは、文字盤の外側を走るベージュ色のリングで表示され、約5度ごとにマーカーが付いており、基点となる方角は赤で表示されています」。この時計を羅針盤として使う人はいないだろうが、24時間時計であることに(無理矢理)理由を付けたのも素晴らしい。理屈抜きで素晴らしい。


唯一無二の1本針24時間時計

 冗談はさておき、この時計の魅力は詰まったディテールにある。実物はまだ手にしていないが、写真からそれをひもといていきたい。搭載するムーブメントは、自動巻きムーブメントのMB 24.20だ。現在モンブランは、MB 24系のベースに、セリタのSW200系(ETA2824-2代替機)と300系(ETA2892A2代替機)を用いているが、スペックを見る限り、MB 24.20のベースはSW300系だろう。品質が安定したことにより、現在このムーブメントは様々なメーカーが使うようになり、様々なバリエーションを加えた。しかし、SW300系に24時間表示も1本針のバリエーションも存在しない。つまりこれはモンブラン専用機だろう。同社が「エクスクルーシブ」な機構を好むことを考えれば、おそらくはそのはずだ。

非常に詰まったディテールを持つ文字盤。インデックスのみならず、太くて長い時針や、北半球にも夜光塗料が施されている。針の袴を太くし、さらに黒く塗ることで、針と文字盤の隙間をきちんと詰めたのは見識だ。また、インデックスにきちんと届いた時針は、いかにも愛好家好みのディテールである。

 秒針と分針をなくし、時表示を24時間に改めた結果、理論上このムーブメントは、時針を動かすための軸トルクが大きいはずだ。その結果は、24時間針を見れば明らかだ。太くて長い時針にはたっぷりとスーパールミノバが載せられ、先端はインデックスにきちんと届いている。そのため、分針はなくとも、かなり正確に時刻を読み取れるはずだ。それに、日付表示がないため、セリタ特有の、日付が変わる際のパチパチ音もない。以前ほど大きくはなくなったが、ETAとセリタを見分けるポイントのひとつは、相変わらずこの音だ。筆者は気にならないが、気にする人は気になるだろう。それが、このムーブメントにはないのである。また、分と秒針を省いた結果、ケース厚も11.2mmに留まった。


今のモンブランらしい詰まった外装

 写真で見た限りだが、外装の出来も良い。風防にはドーム状のサファイアを使い、ベゼルをギリギリまで絞ることでアンティーク感を強調してみせた。かつては、これほど細いベゼルで重いサファイアのドーム風防を支えるのは禁忌とされていたが、おそらく、モンブランはブレークスルーを見出したのだろう。従来の1858も細身のベゼルを持っていたが、いっそう強調された。ベゼルの素材はブロンズ合金。モンブランは公表していないが、同社のブロンズ合金は、IWCやチューダー同様、経年変化が穏やかなものである。普段使いにも向くだろう。


ジオスフェールを思わせる凝った文字盤

 この時計は、文字盤も魅力的である。下地の黒、北半球を描いたグレー、そして緯線と経線(子午線)を記した黒線は、歪みなく載っている。地球を描く場合スクリーン印刷を使うことが多いが、モンブランはあえてインクを載せる手法を選び、文字盤に「ジオスフェール」同様、スーパールミノバで北半空を描いてみせた。これは非常に難しいテクニックだが、沖縄まできちんと表現されているのは喜ばしい。地球がどのように光るかは実際見ていないから分からないが、おそらくは、トップ写真のような淡い光り方になるのだろう。どう光ってもカッコいいのは間違いない。


旅時計を作らせると、モンブランはうまい!

 筆者が24時間時計マニアであることを差し引いても、クラシカルなデザインと、よく練られたディテール、そして手頃なパッケージングを両立させた1858 オートマティック24Hは大変魅力的な時計だ。24時間時計の常で、使うシチュエーションは限られるだろう。しかし、例えばちょっと面白い旅行の相棒に本作を選ぶと、旅気分はいっそう盛り上がるに違いない。旅時計を作らせると、モンブランは本当にうまい。これもマジで悩む1本です。うーんかなり欲しいなあ。



2020年 モンブランの新作時計

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/44863/