インヂュニアの系譜
初代「インヂュニア」は空軍仕様の耐磁技術を民生機に応用したモデルだ。インヂュニアは超耐磁性を求めて進化を続けたが、試行錯誤の末に、広義のスポーツ性能を求めたモデルも登場している。
1955年に最初のモデルが登場
英国空軍では第二次世界大戦中にレーダーを実用化しており、戦闘機のコックピット内は強い磁場にさらされていた。
英国空軍の要望を受けて開発されたマーク11は、軟鉄製のインナーケースとダイアルでムーブメントを保護し、万が一レーダーが不具合を起こしても緯度・経度を計算できる高耐磁性クロノメーターであった。
1955年に誕生したインヂュニアは、IWCが誇る軍用パイロット・ウォッチの耐磁技術を転用した民生機である。
電子工学や放射線医学などが発展する大戦後にあって、インヂュニアは強い磁場にさらされるエンジニアたちから厚い信頼を勝ち得たのだ。
インヂュニアSLなど現行モデルに近いデザインに
インヂュニアは1967年のRef.866/1808でスポーティーかつ現代的なフェイスを手に入れ、1976年の「インヂュニアSL(Ref.1832)」で独創的なアプローチを試みた。
インヂュニアSLをデザインしたのは、パテック フィリップの「ノーチラス」やオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」を手掛けたジェラルド・ジェンタである。
搭載するCal.8541は厚さ5.9mmと分厚かったが、側面を削ぎ落とし、さらにケースをラグ側に向かって傾斜させるアプローチで視覚的な薄型化を図った。
ベゼルにはねじ込み器具用の穴を5つ配し、ジェンタらしいスポーティーなデザインに仕上がっている。
2013年が初出の「インヂュニア・オートマティック(Ref.323906)」では、オリジナルモデルのデザイン要素を踏襲しつつ、ソリッドバックを採用してケース厚を10mmに抑えている。
非耐磁モデルも登場
インヂュニアでは耐磁ケースにムーブメントを収める設計を基本としてきた。耐磁性を高めるには腕時計が重く厚くなることは避けられず、2013年以降では耐磁ケースを持つのは薄型ムーブメント搭載モデルに限定している。
耐磁ケースの縛りから解放されたことで、インヂュニアにはクロノグラフやパーペチュアル・カレンダーといった複雑機構搭載モデルも登場するようになった。
インヂュニアの現行モデル
「インヂュニア」の現行モデルは個性的なジェンタデザインから離れ、シンプルな初期デザインへの回帰を見せている。ビジネススタイルとの相性も良い、注目の3モデルを紹介しよう。
インヂュニア・オートマティック
自動巻き(Cal.35111)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ42時間。SS(直径40mm)。12気圧防水。51万5000円(税別)。
「インヂュニア・オートマティック(IW357001)」は、1950年代の初期インヂュニアを彷彿とさせる、シンプルなラウンドケースのデイト表示付き3針モデルだ。
角ばった針、インデックスや刻みの多いミニッツサークルはメカニカルな印象を与え、ポリッシュ仕上げのベゼルやアリゲーターストラップが高級感を添える。
表示要素は夜光性で12気圧防水も備え、日常使いにおける実用性が高いモデルだ。
ステンレススティール製ブレスレットが好みならブラックダイアルのIW357002、ドレッシーな雰囲気を求めるなら18KレッドゴールドケースのIW357003を選ぼう。
インヂュニア・クロノグラフ
自動巻き(Cal.69375)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ46時間。SS(直径42.3mm)。12気圧防水。89万5000円(税別)。
「インヂュニア・クロノグラフ(IW380802)」は、スーツスタイルに映える鮮やかなブルーダイアルが魅力的なクロノグラフだ。
12時間積算計、30分積算計、スモールセコンドという3つのインダイアルは1段低くレイアウトし、針はクロノグラフ秒針を含めてロジウムメッキを施した。
タキメーターはベゼル上ではなくダイアル外周に配し、視認性を邪魔することなくデザインの一部として効果的に作用している。
ポリッシュ仕上げのベゼルやケースと一体感のあるブレスレットも相まって、非常にまとまりのよいエレガントなクロノグラフに仕上がっている。
インヂュニア・パーペチュアル・カレンダー・デジタル・デイト/マンス
自動巻き(Cal.89801)。51石。2万8800振動/時。パワーリザーブ68時間。18KRG(直径45mm)。12気圧防水。522万5000円(税別)。
「インヂュニア・パーペチュアル・カレンダー・デジタル・デイト/マンス(IW381701)」は、シンプルなラウンドケースにIWC独自のパーペチュアル・カレンダーを搭載した、モダンクラシックかつメカニカルな魅力溢れるモデルだ。
月と日付は懐中時計時代に開発したパルウェーバー・システムでデジタル表示し、ダイアルカラーはブラックとホワイトを巧みに使い分ける。
18Kレッドゴールドケースとアリゲーターストラップも相まって、遊び心のある大人が身につけたいドレッシーなモデルに仕上がった。
インヂュニアの魅力を知ろう
インヂュニアは耐磁性時計の象徴といえるが、時代の要請に合わせてビジネスユースの実用的な腕時計として着地した。メカニカルで高級感があっても嫌味がなく、夜光性や防水性能は腕時計の活用シーンを拡大する。
一部のコレクターの嗜好品に留まらない、日常を豊かにするインヂュニアの魅力に触れよう。
https://www.webchronos.net/features/40932/
https://www.webchronos.net/features/46998/
https://www.webchronos.net/features/44955/