ノンストレスな着用感こそ、実用時計のあるべき姿
実際に着用してみる。ツク棒の角度が少しキツいため、分厚いストラップに通し、バックルを留めるのは少々苦労する。だが、ストラップ自体はしなやかであるため、思い切って押し込んでしまえば問題なく着けることができる。
ツク棒の角度を控えめにする、もしくは平型でなくしてしまえば、もう少し取り付けが楽になるかと思ったが、腕に着けた状態のバックルを見て、その考えが誤りであったと気付いた。ツク棒がバックルの溝にピッタリと収まり、見事な一体感を見せていたからだ。時計本体に相応しい、しっかりとしたバックル。その塊感を強調させるデザインである。
着用感は、予想に反して上々である。本体が大型であるため、“金属の塊を載せている”ような装着感かと思いきや、そのようなことはなかった。これには拍子抜けした。手を振って歩いてみても、腕が引っ張られるような感覚はかなり控えめであった。もちろん、着けていることを忘れるというほどではない。
それにしても、なぜこのように装着感を良くできているのだろうか。これは筆者の意見でしかないが、前述したようにストラップの取り付け位置をラグの根元近くにすることで、時計の重心が腕に近づいていること、そして厚みとしなやかさのあるストラップが、しっかりと重量を分散させているからではないだろうか。
着用したままでも視認性は良好だ。強いて言えば、時分針が少し細いようにも思うが、一方でこれ以上太くすると上品さが失われてしまうようにも感じる。また、斜めに立ち上がったシルバーのチャプターリングは、あらゆる角度からの視認性を高めている。
操作をしてみる。リュウズはねじ込み式となっており、一段引きで時刻調整をすることができる。日付はケース側面10時位置のコレクターをプッシュすることで変更可能だ。小の月など、日付変更のみが必要な場合にリューズのねじ込みを解除する必要がないのはありがたい。
クロノグラフ機能の操作は、2時位置のプッシャーでスタート/ストップ、4時位置でリセットのオーソドックスなものだ。プッシャーの押し込みには少し力が要るが、肉厚のケースとプッシャーの頭に刻まれたチェッカリングが、押し込みやすさに一役買っている。クロノグラフ秒針は青く塗装され、時分針と差別化されている。普段存在を主張することはないが、使用時にはしっかり見分けられる、実用的なカラーリングだ。
ダイアルやケースは、細部に至るまでユニークな意匠を持っている。ただしこれらは、単に奇をてらったものではなく、実用性を重視した意味のあるデザインである。自動巻き(Cal.ETA7753ベース)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径43.0mm、厚さ 16.1mm)。10気圧防水。34万円(税別)。
アイコニックな14角形のベゼルは、上面から見てもそこまで目立たない。上品さを意識し、ベゼルを薄くしているからだろう。だが斜めから見た際、光が当たり、特徴的なシルエットが浮かび上がる様は、「スカイチーフクロノグラフ」が最も魅力的に映る瞬間のひとつではないかと思う。
総評
“良い意味で予想を裏切られ続けたモデル”というのが率直な感想である。ユニークなだけと思っていたが、実は哲学に忠実に従ったタイムレスなデザイン。汎用クロノグラフムーブメントを搭載したが故の大きく厚いケースは、それらを感じさせない工夫が随所に見られる。そして忘れてはいけないのは、内箱のギミックや裏蓋の向き等、時計を手にした人に感動を味わってもらいたいという、ユーザーに寄り添ったブランドの想いが強く伝わってきたことだ。
前述したとおり、初めて手にしたときには、その大きさに不安すら覚えるほどであったが、テストが終わりに近づくにつれ、段々と「スカイチーフクロノグラフ」に魅了されつつあることに気付いた。まるでホームステイに来た異国の学生と、最初は文化の違いに戸惑いつつも、徐々に仲良くなっていったかのような、そんな感覚である。いつかまた、どこかで会えることを楽しみに、そっと箱に収めた。
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