1927年に経営を引き継いだヘンリー・ブラウンとその息子ジョージは、ルイ-シャルル・ブレゲをはじめとするブレゲ家とのつながりを維持していた。2度の世界大戦を通して、ブレゲの時計製造会社は腕時計とブレゲ・アビエーション社製航空機のコックピット用時計の両方を提供していた。18年に初めてのパイロットウォッチを製造し、クロノグラフ搭載機の製造も開始した。これらの時計は、距離、燃料消費量、飛行経路の計算や、また航空が直面するその他の物流上の課題に対応するために使用され、10年に設立されたフランス海軍航空隊(Aéronavale)が採用したブレゲ・アビエーション社製戦闘機のコックピット計器盤に取り付けられた。ブレゲは30年代を通してフランス軍のためにパイロットウォッチを作り続け、35年には初のクロノグラフ搭載腕時計を発表した。
戦後の1950年代まで時計の針を進めてみよう。ルイ-シャルル・ブレゲ一族が創業した時計製造会社は、まだ彼らの友人ヘンリーとジョージ・ブラウンの手中にあった。54年、ブレゲはパイロットウォッチ製造会社を探していたフランス海軍航空隊の公式サプライヤーとなり、同年、初の軍用腕時計「タイプ20」を製造した。30年代のモデルをベースにしたそのデザインは、その後さらなる進化を遂げる。直径38mmのステンレススティールケース、ブラックのバイコンパックスダイアルに蓄光性の針、そして特に重要なのが、フライバッククロノグラフ機能が腕時計に初めて搭載されたことだ。58年には海軍航空隊がブレゲに、よりパイロットの求めに応じた更新を要求。30分積算計を、飛行前に航空機をチェックするために必要な時間を表す15分積算計に置き換えた。これらの初期モデルはケースバックに「Marine Nationale Aeronautique Navale」と記載があり、60年に500本が生産されている。
1960年代初頭に販売された民間向けの第2世代モデルでは、アラビア数字をローマ数字に置き換えた「タイプXX」の名称が採用された。厚みを増したベークライト製回転ベゼル、幅広のラグなど、素材や外観面でもいくつかの改良が施されている。軍用の前身モデルと同様に、フライバッククロノグラフを搭載したバルジュー製ムーブメントを搭載している。
第3世代の「タイプXX」は、第2世代が生産終了となってから数十年後の1995年に登場した。他の多くの機械式時計と同様に、ブレゲ「タイプXX」も70年代から80年代の"クォーツ危機"の波にもまれ、90年代に高級機械式時計が復活するまで休眠状態にあった。この激動の時代に、ブレゲは会社のオーナーが再度変わることとなった。創業者ブレゲ一族よりも長い間ブランドを支えたブラウン一族は、会社を70年にパリの宝石商ショーメに売却。ショーメはその経営の中心を76年にパリからスイスのジュウ渓谷へと移し、87年にはバーレーンに本拠地を置くインベストコープに再び売却した。
「タイプXX アエロナバル」では、ケースサイズが直径39mmとなったほか、ブレゲの特徴的なモチーフとなっているケースサイドのコインエッジ(刻み)の採用などがあった。もうひとつの大きな変更点は、レマニア1350をベースに、フライバック機能のための自社製モジュールを搭載した新しい自動巻きキャリバー、ブレゲ582が採用されたことだ。アエロナバルを継承しつつ1998年に発表された「タイプXX トランスアトランティック」は、6時位置のサブダイアルに日付表示を追加し、アエロナバルのベゼルのポリッシュ仕上げをより実利的なサーキュラーブラッシング仕上げに変更している。タイプXX トランスアトランティックは、ブレゲ・アビエーション社と共有する航空の歴史に敬意を表し、30年にブレゲ19型機がニューヨークからパリまで無着陸で飛行したことを記念した特別なプレゼンテーションボックスに収められた。
ミレニアムを迎える頃、会社の所有者が再度変更された。スウォッチ グループが1999年にブレゲを買収して時計コングロマリットの王冠を手に入れたのだ。そしてタイプXXも新たな解釈が加えられた。タイプXXIは2004年に発表され、11年にはチタン製の新しいケースも採用し、より現代的な直径42mmにサイズアップした。このモデルでは、自動巻きキャリバー584Qを搭載したフライバッククロノグラフが採用され、センターに取り付けられた針が経過時間の秒と分を表示し、12時間積算計、スモールセコンド表示、日付表示に加えて24時間(昼夜)表示が採用された。
2010年に発表された第6世代の「タイプXXII(タイプ トゥエンティトゥ)」は、最初はステンレススティール製、後にローズゴールド製となった。このムーブメントは、軽量で耐磁性に優れたシリコン製ヒゲゼンマイと脱進機を搭載しており、毎時7万2000振動(10Hz)という超高速振動を実現している。その結果、クロノグラフ秒針が従来の60秒ではなく30秒で1回転する表示に改められた。ブレゲとスウォッチ グループが協力して開発したシリコンパーツにより、稼働部品がより軽量化され、動力の伝達効率も向上した。ブレゲはまた、ストップウォッチの計測の読み取りを容易にし、直感的に操作できるようにした。タイプXXIIはまた、フライバッククロノグラフ、日付表示、24時間(昼夜)表示だけでなく、リュウズの2段引きで簡単に操作できるデュアルタイム表示も兼ね備えている。
タイプXXIは、2016年に初めてトランスパレントバックを採用した。フライバッククロノグラフ機能を搭載した自動巻きキャリバー584Q/2は、直径42mmのステンレススティール製ケースに収められ、レトロなスタイルのスレートグレーダイアルが合わせられた。キャリバー584Q/2は、チタン製の前身モデルが搭載していた584Qから技術的に若干アップグレードされており、スイスレバー脱進機などに、より多くのシリコン部品が追加されている。エングレービングが施された両方向回転式ベゼルは、滑らかなサテン仕上げで、ねじ込み式リュウズは現代的な100m防水を保証する。また、サファイアクリスタルケースバックからムーブメントと装飾の施されたゴールドローターを眺めることができるようになっているのも現代的で、これはブレゲのアビエーションウォッチとしては初の試みである。ブラウンのカーフスキンにオフホワイトのコントラストのあるステッチを施した頑丈なパイロットスタイルのストラップは、「タイプXX」のヴィンテージの起源を取り入れている。
一般的なヴィンテージウォッチ、特に希少性の高いヴィンテージミリタリーモデルの収集性は、かつてないほどに高まっている。そして2019年、ブレゲはついに、パイロットウォッチの布石となった軍用時計「タイプ 20」をユニークピースで復活させた。ブレゲはオリジナルの直径38.3mmステンレススティール製ケースの「タイプ 20」(モデル名がアラビア数字に戻ったことに注目)を製作し、モナコ筋ジストロフィー協会が主催する国際的なチャリティーイベント「オンリーウォッチ」オークションに出品したのだ。21万スイスフランという高値で落札されたこのタイムピースは、初期モデルに見られるふたつのスモールダイアル、カーブしたラグ、大きな玉ねぎ型のリュウズなどのデザインに加え、ブロンズ色の文字盤など、最近の「タイプXX」から派生した現代的な要素を取り入れている。裏蓋には特別なエングレービングが施され、内部にはオリジナルモデルに採用されていたムーブメントを現代的に改良した手巻きフライバッククロノグラフムーブメントのバルジュー235が搭載されている。
ブレゲ・アビエーション社は、それ以前の伝説的な時計会社と同様に、もはや創業者一族の手に渡ることはない。ルイ-シャルルは1955年に死去し、航空分野での並々ならぬ業績を残した生涯に幕を閉じた。彼の会社は71年にフランスの航空機メーカーであるダッソーと合併し、その後ダッソー・アビエーションとして再ブランド化された。腕時計であれ飛行機であれ、ブレゲ王朝の影響力は不変であり、否定できないものだ。そして「タイプXX」コレクションは、その歴史を語る最も純粋で崇高な表現であるだろう。
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