ヒロタの語る、知られざる名機 Vol.1 ジン「244TI.I」

FEATUREその他
2020.12.15

ワンオーナーの244TI.Iを購入しオーバーホール

244TI.I

オーバーホール前の244TI。味があって好ましいが、あえて文字盤と針、見返しは交換した。なお、交換した部品はちゃんと返却してくれる。

 コロナ禍で待つこと数カ月、ようやくオーストリアから244TIが届いた。価格が安かったからか、コンディションはまずまず。ねじ込み式のリュウズはバカになっていたし、チタン製の外装も傷んでいる。そしてトリチウムを塗布した針とインデックスも、経年変化でかなり劣化している。

244TI.I

244のケース構造を示す写真。ムーブメントを軟鉄製のインナーケースと文字盤で覆い、それを8つのラバーでムーブメントに据え付けている。巻真も分割可能なタイプだ。

 このまま使っても面白そうだが、タフに使ってこそ244TI。完全に修復すると決めた。日本の代理店であるホッタに持ち込んだところ、もちろん修理は可能とのこと。リュウズのチューブは言うまでもなく、針や文字盤も新品があるという。

244TI.I

オーバーホールを受けるため、ムーブメントを取り出した状態。黄変した夜光塗料が示すとおり、2001年以前の244はトリチウム夜光を用いていた。

 預けること1カ月、完全に復活した244TIは、かつて筆者が雑誌で見た、244TIそのものの姿を取り戻した。嬉しいのはチタンケースとブレスレットを再仕上げしてくれること(ケース5000円、ブレスレット5000円の仕上げ料はかかる)。244TIの採用する通称グレード2チタンは、理論上、再仕上げが難しいとされている。

 しかし、ホッタはオリジナル同様のブラスト仕上げで、ケースを仕上げ直してくれるのである。針と文字盤、そして夜光塗料を施したインナーベゼルが新しくなったこともあり、気分は新品である。オーバーホールによって夜光はトリチウムからルミノバに置き換わったが、244TIは、枯れゆく味を楽しむ時計ではなく、使ってなんぼの実用機だ。むしろルミノバのほうがありがたい。

244TI.I

244TIが採用したのは、いわゆるグレード2チタン。再仕上げは難しいが、ホッタはブラスト処理を行っている。仕上がりの良さは写真が示すとおり。ブラストの表面にムラはまったくない。

 実用時計に求められる条件を余すことなく盛り込んだ244TIは、今なおジンの最高傑作だと思っている。しかしながら、あまりに玄人向けだったのか、日本以外ではあまり売れなかったようだ。ローター・シュミット曰く「94年から2006年にかけての生産数は1200本」。この素晴らしいコンセプトはそのままに、244TIの後継機をリリースしてほしいと思うのは、筆者だけだろうか?


244TIバイヤーズガイド

1994年から2006年まで製造された244TIに、大きな仕様違いはない

244TI.I

耐磁性能を高めるため、文字盤には厚さ0.7mmの軟鉄を使用する。その結果、244TIの針高は実用時計とは思えないほど低く抑えられた。

唯一の変更点がバックル。前期型は短く、後期型は長い。

244TIにはC.O.S.C.のクロノメーター証明書が付いている

244TI.I

高精度機らしさを感じさせるのは、細い秒インデックスと、インデックスまで届いた秒針である。クロノメーターと「80’000A/m」耐磁の表記も実用時計らしく簡潔だ。

もっとも、証明書付きで残っている個体は少ない。

244TIの純正ムーブメントには、リファレンス番号と製造番号が「244****」が刻まれている

244TI.I

オーバーホール前のムーブメント。ジンで受けにリファレンス番号が刻まれているのは、244TIと初期のレマニア5100搭載機のみとのこと。

完全なオリジナルを探している人は(仮にそういう人がいるならば、だが)、ムーブメントの刻印をチェックすること。

244TI.I

裏蓋も当然チタン製。モデル名と製造番号が記されている。この固体の製造番号は02823。244の最初期型である。

244TIの夜光塗料は、2001年にトリチウムからルミノバに変更されている

244TI.I

ジン244TIの美点が、暗所における高い視認性だ。写真が示すとおり、分針の先端にまでたっぷりと夜光塗料が施されている。オリジナルはトリチウム夜光だったが、オーバーホールの際、ルミノバ夜光に交換された。また、広く取った見返しにも夜光塗料を施している。

なお、現在ジンが提供している交換部品は、すべてルミノバが塗布されたものである。


Contact info: ホッタ Tel.03-6226-4715


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