過酷な環境に挑む新生スプリングドライブ
これまでの概念を覆すセイコー独自の駆動方式として、1999年、構想から20年以上の開発期間を費やして誕生したのが「スプリングドライブ」だ。強いトルクを生み出すゼンマイ駆動でありながら水晶振動子からの正確な信号で制御するという、機械式とクォーツ式の利点を併せ持つスプリングドライブムーブメントは、日差1秒以下という高精度を実現した画期的なものだった。
スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days SLGA001
自動巻き(Cal.9RA5)。38石。パワーリザーブ約120時間。ブライトチタン(直径46.9mm、厚さ16mm)。600m防水。世界限定700本。115万円(税別)。
2004年からグランドセイコーの主要モデルの心臓部を担う9Rスプリングドライブは2020年、「キャリバー9RA5」として進化を遂げた。ムーブメントの薄型化と低重心化は、これまで以上の装着感を実現。そして新たに大きさの異なるふたつの香箱を搭載する「デュアルサイズバレル」を採用することで、パワーリザーブを約3日間から約5日間まで延ばすことに成功した上、省スペース化も実現している。
この全く新しいムーブメントが初めて搭載されるのは600m飽和潜水仕様のプロフェッショナルダイバーズ。温度変化や衝撃の影響を受けにくいスプリングドライブは、過酷な環境でもその力を遺憾なく発揮してくれるだろう。
ついに誕生したグランドセイコーの「新たなスタンダード」
さまざまな記念モデルや新開発ムーブメントが発表される中で、ひときわ異彩を放つのが「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours」である。1998年に誕生した国産機械式ムーブメントの代表格「9Sメカニカル」の次世代を担うキャリバー「95A5」を搭載して誕生した今作は、新時代のグランドセイコーの幕開けを告げる傑作だ。
ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours SLGH002
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。パワーリザーブ約80時間。18KYG(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定100本。450万円(税別)。
その名称の通り毎時3万6000振動という高振動でありながら、ツインバレルを採用することで約80時間の持続時間を実現する。そして、一般的なスイスレバー脱進機と比較してより効率的に動力を伝達する「デュアルインパルス脱進機」を採用した点が非常にユニークだ。複雑な形状をしているため製作は容易ではなかったが、精密加工技術であるMEMSにより実現した。それに加えて、フリースプラング方式で独自形状の巻き上げヒゲを用いたテンプは携帯時の精度向上に大きく貢献している。
革新的なムーブメントとは対照的に、外装は初代グランドセイコーを模範とした普遍的なデザインだ。アニバーサリーイヤーを飾る、グランドセイコーの「新たなスタンダード」の誕生を祝したい。
朝焼けをイメージした回転錘に注目
グランドセイコーの腕時計は、コレクションごとに共通のデザインで構成されているため、一見レギュラーモデルと限定モデルの違いが分かりにくいことがある。しかし、その絶妙な違いを見分けることもグランドセイコーの魅力のひとつなのかもしれない。
60周年記念モデル ヘリテージコレクション メカニカルモデル SBGR321
自動巻き(Cal.9S65)。35石。パワーリザーブ約72時間。SS(直径40mm、厚さ13mm)。10気圧防水。世界限定2500本。55万円(税別)。
ブランドを象徴するカラーである「グランドセイコーブルー」の文字盤と、抜群の視認性を誇る先端に赤い差し色を配した秒針が目を引く、この記念モデルの最大の特徴は裏側に隠されている。「グランドセイコースタジオ 雫石」から程近い、岩手山の朝焼けをイメージしたという鮮やかなブルーの回転錘は、チタン素材に陽極酸化皮膜を施して作られたもの。また、裏蓋のサファイアクリスタルの外周部の赤色は、真っ赤に染まった朝焼けの雲をイメージしている。
戦国武将の力強さを感じさせる1本
グランドセイコーの中でも大型なケースで男性的なデザインが印象的な「スポーツコレクション」。グランドセイコーの飽くなき挑戦を続けるものづくりへの姿勢は、かつて頂点を追い求めて戦った戦国武将に通じるものがある。
60周年記念モデル スポーツコレクション スプリングドライブクロノグラフGMT SBGC238
自動巻き(Cal.9R96)。50石。パワーリザーブ約72時間。18KPG(直径44.5mm、厚さ16.8mm)。20気圧防水。世界限定100本。460万円(税別)。
この記念モデルのモチーフとなったのは「獅子甲冑」。直径44.5mmの迫力あるゴールドケースには、威風堂々とした獅子の風格がうかがえる。獅子のたてがみを表現した有機的な模様が美しい文字盤と、斑(ふ)の溝の部分にピンクゴールド色の塗料を塗り込んだ「谷入れ」を施したクロコダイルストラップのカラーには、勇敢さを示すシンボルだった藍染めの「勝色(かついろ)」を採用し、武士が好んで身に着けたとされる甲冑の藍染めをテーマにしている。随所から武士や獅子の力強さを感じさせる勇ましい本作。スプリングドライブの滑らかなスイープ運針が現代の時を優雅に刻む。
価格を抑えた「新たなスタンダード」の注目作
2020年3月に発表された、グランドセイコーの新時代を告げる新型ムーブメント「キャリバー9SA5」。その華々しいデビューを飾った搭載モデルは、重厚感漂う18KYGのケースに収められた「高級」仕様で450万円(税別)という高価格帯だったため、購入を見送ったという人も多いはず。
ブランド誕生60周年記念限定モデル ヘリテージコレクション メカニカルモデル SLGH003
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。パワーリザーブ約80時間。SS(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定1000本。100万円(税別)。
しかし2020年10月に朗報が飛び込んできた。キャリバー9SA5を搭載しながらケースとブレスレットの素材をステンレススティールに改めたことで、価格を100万円(税別)まで抑えた限定モデルが発売されたのである。初代グランドセイコーの意匠を受け継ぐデザインは健在で、グランドセイコー誕生60周年を祝う「グランドセイコーブルー」の文字盤と赤い秒針はさすがの視認性だ。低重心化されたムーブメントと良質なブレスレットは、装着感の向上に大いに貢献している。