米国人ジャーナリストがグランドセイコーを“巨人”と称するワケ。T0や9SA5が業界に与えた大きな衝撃

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2022.07.11

Cal.9SA5が見せた新しい夜明け

SLGH002

グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours」Ref.SLGH002
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。パワーリザーブ約80時間。18KYG(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定100本。450万円(税別)。

 より技術的な進歩を見られるのが、同じく20年に発表されたグランドセイコーの新しいハイビートキャリバーCal.9SA5の開発だ。グランドセイコーの9S機械式キャリバー(初期導入1998年)の最新進化形は3万6000振動/時と高振動ながら、それでいて約80時間のパワーリザーブを保持する。日差+5秒〜-3秒の範囲に調整された新しいムーブメントは、3つの技術的特徴にぜひ注目したい。

 ひとつめは自社開発のデュアルインパルス式であり、ガンギ車から直接テンプにパワーを供給する「直接衝撃」と、これまでのスイスレバー式の間接衝撃を組み合わせることにより効率を高めている。

デュアルインパルス脱進機と名付けれらた、スイスレバー脱進機とデテント脱進機の利点を兼ね備えた同軸脱進機を搭載することで、ムーブメントの伝達効率を改善。さらに、香箱をふたつ搭載することで、3万6000振動/時のハイビート機でありながら、約80時間ものロングパワーリザーブを実現した。

 そして次が新たに開発されたフリースプラングのテンプであり、既存モデルに比べ耐衝撃性における強化と摩擦の軽減が見られ、またヒゲゼンマイは等時性の改善に貢献するため平ヒゲではなく、巻き上げヒゲが用いられている。

 そして最後はCal.9SA5の革新的な「水平輪列構造」が挙げられる。グランドセイコーの既存のハイビートキャリバー(Cal.9S85)と比較して、0.8mmも厚みを抑えることに成功しているのだ。


薄型化に成功したスプリングドライブ、Cal.9RA5

9RA5

地板の直径を拡大し、自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに置くことで、大幅な薄型化に成功した、スプリングドライブの新世代基幹機「Cal.9RA5」。

 同時にグランドセイコーは、スプリングドライブムーブメント(1999年初出)の開発も続けてきた。新しいCal.9RA5は、ブランド独自の技術を文字どおり次の段階へ進めることとなった。同じ自動巻きスプリングドライブのCal.9R65と比べて60%増の約120時間パワーリザーブや月差±10秒(Cal.9R65では月差±15秒)というより高い精度、そしてムーブメント厚も5.8mmから5mmへと厚みを軽減することなどが特徴として挙げられる。

 このムーブメントは、グランドセイコー「スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days」Ref.SLGA001に搭載されてデビューを飾っている。同モデルではプロフェッショナルグレードといえる600mの防水性能を誇り、高い強度を持つ直径46.9mmのブライトチタン製ケースには、3つ折りのクラスプを付属させたメタルブレスレットが合わせられ、ブルーのシリコンストラップも用意されている。

SLGA001

グランドセイコー「スポーツコレクション スプリングドライブ 5 Days」Ref.SLGA001
自動巻き(Cal.9RA5)。38石。パワーリザーブ約120時間。ブライトチタン(直径46.9mm、厚さ16mm)。600m防水。世界限定700本。115万円(税別)。

 ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2020のダイバーズウォッチカテゴリーにノミネートされたこともポイントだ。


グランドセイコーの精度への貢献、Cal.9F85

 スイスのハイエンドブランドのほとんどが、過去30年にわたり機械式ムーブメントに注力してきた。一方、世界初のクォーツ時計の開発者(1969年12月25日発表)は、常にクォーツ技術を推し進めてきた先駆者でもあるため、グランドセイコー60周年にあたる2020年には、新しいクォーツムーブメントCal.9F85もお披露目されている。

ヘリテージコレクション クォーツモデル SBGP007

グランドセイコー「ヘリテージコレクション クォーツモデル」Ref.SBGP007
クォーツ(Cal.9F85)。9石。SS(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。世界限定2500本。40万円(税別)。

 Cal.9F85は秒針を止めることなく時針の調整が可能なため、海外出張時など時差を補正する際にも、年差±10秒という9Fシリーズの高精度という利点を失うことがない。

 この新しいキャリバーはふたつのグランドセイコー誕生60周年記念限定モデルとしてデビューを果たしており、そのうちのRef.SBGP007に関しては個体選別と調整により年差±5秒の精度を実現している。

 グランドセイコーUSAのプレジデントであるブリス・ル・トロアデックは、最近以下のように言及したという。

「グランドセイコーは現在、3つのキャリバーにて認知を得ています。機械式、スプリングドライブ式、そしてクォーツ式です。アメリカ市場の販売実績において、9Rスプリングドライブ搭載の時計と9S機械式時計の割合は、ほぼ同じと言えるでしょう。ハイエンドなムーブメントに引かれつつ、クォーツ時計並の精度を求める方々の魅力的な選択肢となるモデルこそ、スプリングドライブではないかと考えています」

ブリス・ル・トロアデック

グランドセイコー USA社長のブリス・ル・トロアデック。2018年秋の「Grand Seiko of America」設立に先駆け、2017年5月よりグランドセイコーUSA会長兼CEOの内藤昭男氏率いるチームに参加。


グランドセイコーが魅力的である理由

 時計作りにおける絶対的な目的が何かということを常に見失わないこと。これこそがグランドセイコーを最も魅力ある時計ブランドたらしめている要因と言えるだろう。

 そしてその目的とは「精度」である。言うまでもないことだが、時計作りは科学の一部にして芸術の一部である。そしてそれはクレイ2(1985年に発表された当時世界最速のスーパーコンピューター)の2倍速となるコンピューターを手首につける人が徐々に増える現代にとっては、より意味を増しているのだ。

グランドセイコースタジオ 雫石

2020年にはグランドセイコースタジオ 雫石(上)とパリの新ブティックがオープンした。

 時計作りの本質は、時刻をできるだけ高い精度で表すことであり、これまでも当然そうであった。しかしそれが単に「芸術のための芸術」へと変質してしまい、時計業界全体的にそのスピリットと本来の目的が失われつつある。

 ではあるものの、グルーベル フォルセイが最初の作品「ダブルトゥールビヨン30゜」を2004年に発表したとき、ふたりの革新的な時計師は機械式タイムピースの精度を向上させることを目的としており、トゥールビヨンをふたつ見せることが目的だったわけではない。F.P.ジュルヌの「クロノメーター・レゾナンス」は、最初にして最高のクロノメーターだ。

 T0を手掛けることによってグランドセイコーは、60年前の初代グランドセイコーを送り出した当時の方針を見失っていないということだけでなく、意義深いハイエンドな時計作りにとって最良な側面を改めて打ち出したと言える。


日本の時計産業が至った究極、グランドセイコー 「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」

https://www.webchronos.net/features/52157/
グランドセイコーがたどり着いた、スプリングドライブの独創性を知る

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