1960年代と70年代のアーカイブを復刻
ヘリテージ・コレクションのタイムピースすべてが、戦場の戦車やドックの潜水夫、戦闘機のコックピットのパイロットを想起させるようにデザインされたわけではない。ロンジンは騒乱の1960年代、グルーヴィーな70年代などより直近の歴史から、デザイン面においてはっきり影響を受けたモデルも投入しているのだ。
「ロンジン ヘリテージ 1968」は、ロンジンのメンズコレクションにおいては珍しい、非ラウンド型であるだけでなく、プレシャスメタルを採用したモデルなのだ。そのスクエアケースは、ロバート・F・ケネディやマーチン・ルーサー・キングが暗殺され、さらにベトナム戦争が激化した歴史的変動の多い年に紐づくモデルからの復刻だ。
直径33mmまたは22mmサイズ、ステンレススティールまたは18KRGケース、サテン仕上げのシルバー文字盤、そしてローマンインデックスと外周部を占める控えめなチャプターリングは、ブラックにて丁寧にプリントされている。
SSモデルではロディウム仕上げ、ゴールドモデルではゴールド製時分針のセンターをブラックのニスで仕上げ、文字盤のインデックスに呼応するだけでなく、コントラストを考慮したルックスを実現している。デイト表示の開口部は一風変わった菱形をしており、4時半位置に斜めに配されている。ロンジン ヘリテージ 1968の小型モデルには、約40時間のパワーリザーブを持つ自動巻きキャリバーL595.2(ETA2000/1)が搭載され、大型モデルには42時間のパワーリザーブを誇る自動巻きキャリバーL619(ETA2892/A2)が搭載されている。
その翌年となる69年も歴史的な出来事の多い年であり、心に深く残る事件もあるが(ウッドストックや月面着陸など)、それほどでないものもある(チャパキディック事件やマンソン・ファミリーなど)。同時にそれは時計のデザインにとって特別な時代が浮かび上がって広がり、70年代へと展開していく年でもあった。
2016年発表の「ロンジン ヘリテージ 1969」も、やはりサンティミエのミュージアムピースから選ばれたモデルであり、オリジナル版のクッションシェイプケースは、1960〜70年代の時計において支持を得たスタイルである。オリジナルはスティールに加えゴールドプレートされたスティール、そして18Kゴールドの展開であった。しかし現代バージョンは、ステンレススティール製ケースにサテン仕上げと、サンレイ仕上げが施されたシルバー文字盤を組み合わせたパッケージとなっている。
アプライドのアワーインデックスは針とともに、ローズゴールドカラーが採用されている。デイトの開口部は4時半位置であり、オリジナルと同じ仕様。36mm径のケースはボックス型のサファイアクリスタル製風防を備え、ケースは現在の標準に比べると控えめだが、男女の区別なく着用できることに加え、時計のサイズが比較的小さかった時代に生まれたオリジナルに、外観的にも忠実な仕上がりとなっている。
ロンジンにはもう少し大ぶりな44mm径のクッションシェイプモデルも存在する。「ロンジン ヘリテージ 1973」はクロノグラフモデルであり、ロンジン専用の自動巻きにしてコラムホイール採用のキャリバーL688を搭載している点がポイントだ。ロンジン ヘリテージ 1973は、ブラックのインダイアルとホワイトダイアルの“パンダ文字盤”を備え、キャリバー30Hを搭載したバイコンパックス型のミュージアムピースを復刻したモデルだ。
ドレッシーなクロノグラフ
クロノグラフは、必要から生まれた発明だが、その後多くのニーズにて進化を遂げ、ドレスウォッチの分野にまで広がっている。当然ロンジンもその長い歴史のなかで、多彩なクロノグラフを展開してきた。2017年に発表されたロンジン「ロンジン ヘリテージ クロノグラフ 1940」は、垂直方向のサテン仕上げにより、エレガントな外観を引き立てたシルバー文字盤、スネイル仕上げのパールホワイトとコントラストを描く、3時と9時位置に平行に配されたサブダイアル、それにゴールドトーンの針やインデックス、ドットインデックスなど、戦時中のモデルに範をとった復刻モデルである。
レイルウェイトラックスタイルのミニッツスケールを採用しており、現在のクロノグラフではあまり見掛けない大振りな箱状のクロノグラフプッシャーを持つ。今では一般的となったデイト表示をあえて取り外した点も含め、ベースとなったミュージアムピースの時代考証に則した仕上がりとなっている。41mm径のステンレススティール製ケースには、ETAA07.231をベースとした、ロンジン用に特別にチューンされた自動巻きキャリバーL.705.2を搭載する。
そして2020年、ロンジンは戦後モデルを復刻したエレガントなクロノグラフである「ロンジン ヘリテージクラシック クロノグラフ 1946」を発表。ロンジンはこういったラグジュアリーなタイムピース製作に関し、抜きんでた歴史を持っている。そしてその新作は、40mm径スティール製ケースがドーム型のシルバーオパーリン文字盤を囲みつつ、アラビア数字インデックスが現代的なドルフィンスタイルで描かれ、青焼きのスティール製リーフ型の針を組み合わせた復刻版として完成した。
2020年発表の「ロンジン ヘリテージクラシック クロノグラフ 1946」。オリジナルを忠実に再現した、完成度の高い復刻モデルだ。自動巻き(Cal.L895)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SS(直径40mm、厚さ13mm)。3気圧防水。39万7100円(税込み)。
3時と9時位置のサブダイアルは、スモールセコンドと30分クロノグラフ積算計であり、丁寧にメインの文字盤に型押しされているところが特徴的。アンティーク調のロンジンロゴは、控えめに12時位置に配されている。搭載するのは(ETA A31.L2をベースとした)自動巻きキャリバーL895.5であり、約54時間のパワーリザーブを保持している。経年変化を感じさせる仕上げを施した、ソフトな感触のセミマットブラックのストラップも見逃せないディテールだ。
ヴィンテージ調デザインのリバイバルは、時計ファンの間で支持されているため、ロンジンにおけるヘリテージ コレクションの拡張と多様化も同様に継続すると思われる。ほぼ2世紀にわたる時計作りの歴史を築き上げてきたメゾンゆえに、この競合激しい時計シーンでの優位性は、当然ながら否定できない。また、市場からの要望と要求にもきちんと耳を傾けるという姿勢も備えている。フォン・カネルは引退前、「100%正しいということは、まずありえません」と認めつつ、「ひたすら分析し、顧客の声に耳を傾けることで、成功へつながっていくのだと思います」と語った。ロンジンのさらなる半世紀に期待したい。
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