進化した外装
実は防水性能も10気圧になりました
外装も微妙に進化している。80年代以降、IWCのパイロット・ウォッチは基本的に6気圧防水だった。もっともIWCの6気圧防水は過剰にマージンを取ってあり、実際の防水性能ははるかに高かった。そしてIWCは、新しいパイロット・ウォッチの防水性能を10気圧に高めたのである。
もちろんIWCのことであるから、実際の防水性能はさらに高い。ともあれ、10気圧防水になったことで、ビッグ・パイロット・ウォッチ 43は、よりどこでも使える時計になった。社長のクリストフ・グランジェ・ヘアが「パイロット・ウォッチはどこでも使えるスポーツウォッチ」と豪語したはずだ。
ツール感と高級感を両立させた文字盤とストレートな針
IWC自社製のケースは、相変わらず質が良い。ケースの構造は1943年の「マークX」以降おなじみとなった、ベゼルとミドルケースを一体化したものだ。分かりやすい高級さはないが、均一に入った筋目や、適度に立たせたエッジ、アクセントとして施された鏡面仕上げなどは、ツール感と高級さのバランスを上手く取っている。またブルーの文字盤も、表面に吹くラッカーの加減が上手いのか、強い光源にさらしても白濁しにくい。あくまで筆者の個人的な意見を言うと、ツール感と高級感を両立させた文字盤を作らせると、今のIWCとパネライは頭ひとつ抜けているように思う。またこの文字盤は、ダイヤモンドカッターで仕上げられた針とのコントラストも良好である。
個人的に好ましく感じたのは、分・秒針の先端を曲げていないことだ。近年のIWCは好んで針の先端を曲げるようになったが、本作はあえてのストレート。マニア的には曲げたほうが見栄え良くよく感じるが、おそらくは、先端を曲げた長い針が、たわんだ際に文字盤に接触することを嫌ったためだろう。
つい手巻きしたくなる大きなリュウズ
ビッグ・パイロットらしい大きなリュウズも、ガタをよく抑えてある。これだけ大きいと手巻きしたくなるが、自動巻き機構にセラミックスを多用した82000系ならば、手巻きを多用しても問題は少ないだろう。ちなみに筆者は、かつて巨大なリュウズを持つクロノスイスの「タイムマスター40」を持っていた。リュウズが大きいと、つい手で巻きたくなる。その結果、搭載するETA2892A2はどうにもならないほど摩耗してしまった。そういった心配は、82000系を載せたビッグ・パイロット・ウォッチ 43ならばまずないだろう。
ブレスレット/ストラップの交換は実に簡単
2021年のパイロット・ウォッチは新開発の「EasX-CHANGE」システムを搭載することで、ブレスレットとストラップがインターチェンジャブルになった。写真が示すとおり、取り付け部は頑強で、強いショックを与えても外れることはなさそうだ。またおなじみのブレスレットも、相変わらず質が良い。マークXVの頃は使うと金属粉で袖が汚れ、以降のものはそれを避けるために設計を変えたが、IWCのブレスレットらしいかっちり感がやや損なわれた。対して最近のパイロット・ウォッチ用ブレスレットは、袖を汚すこともないし、IWCらしい剛性感もある。正直軽いブレスレットではないが、重いビッグ・パイロットとならば、バランスは取れている。
バックルのみが弱点か
唯一の弱点は、レザーとラバーに取り付けられるデプロイメントバックルだ。あくまで推測だが、IWCはデスクワークでも使えるよう、バックルを薄く仕立てた。これが開閉用のプッシュボタンがない理由だろう。またストラップを交換しやすくするためか、46mmサイズのバックルに比べて、かなり開きやすくなった。普通の時計ならば問題ないが、頭の重いビッグ・パイロット・ウォッチの場合、強いショックを与えると簡単に開いてしまうだろう。重さを考えれば、バックルはブッシュボタン式に改めるべきではないか。
結論:ミリタリーテイストと上質さの巧みな両立
さて結論である。良質な外装と、頑強で高効率な自動巻きを載せたIWCのビッグ・パイロット・ウォッチ。新しい43mmモデルは、その特徴を受け継ぎつつも、細腕の人にも優しいモデルである。ビッグ・パイロットはほしいけど、サイズが無理という人にはうってつけのモデルではないか。筆者は2週間ほど借りたが、正直返すのが残念で仕方なかった。筆者はガチのIWCファンだから評価は甘いが、これは素直にいい時計だと思う。とりわけ、ミリタリーテイストと上質さの両立は群を抜いている。興味のある方は、ぜひぜひ店頭でトライあれ。
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