細腕にも優しいぞ! “小さく”なったIWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」

FEATUREその他
2021.06.24

進化した外装

ベゼル ビッグ・パイロット・ウォッチ

IWCのパイロット・ウォッチの特徴が、ベゼルとミドルケースを一体化した2ピースケース。飛行中、急激に気圧が変わっても風防が外れないためのものである。今となってはあまり意味のないディテールだが、IWCは頑なにこの構造を守り続ける。また、ベゼルに当たる部分を半分ポリッシュ、半分サテンに仕上げることで、ベゼルをより細く見せている。

実は防水性能も10気圧になりました

 外装も微妙に進化している。80年代以降、IWCのパイロット・ウォッチは基本的に6気圧防水だった。もっともIWCの6気圧防水は過剰にマージンを取ってあり、実際の防水性能ははるかに高かった。そしてIWCは、新しいパイロット・ウォッチの防水性能を10気圧に高めたのである。

 もちろんIWCのことであるから、実際の防水性能はさらに高い。ともあれ、10気圧防水になったことで、ビッグ・パイロット・ウォッチ 43は、よりどこでも使える時計になった。社長のクリストフ・グランジェ・ヘアが「パイロット・ウォッチはどこでも使えるスポーツウォッチ」と豪語したはずだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ ラグ

IWCのパイロット・ウォッチは、ラグの稜線を鏡面仕上げにしている。傷が目立ちにくくなるほか、マットなケースの立体感を強調する。なお、このモデルのケースは自社製である。

ツール感と高級感を両立させた文字盤とストレートな針

 IWC自社製のケースは、相変わらず質が良い。ケースの構造は1943年の「マークX」以降おなじみとなった、ベゼルとミドルケースを一体化したものだ。分かりやすい高級さはないが、均一に入った筋目や、適度に立たせたエッジ、アクセントとして施された鏡面仕上げなどは、ツール感と高級さのバランスを上手く取っている。またブルーの文字盤も、表面に吹くラッカーの加減が上手いのか、強い光源にさらしても白濁しにくい。あくまで筆者の個人的な意見を言うと、ツール感と高級感を両立させた文字盤を作らせると、今のIWCとパネライは頭ひとつ抜けているように思う。またこの文字盤は、ダイヤモンドカッターで仕上げられた針とのコントラストも良好である。

 個人的に好ましく感じたのは、分・秒針の先端を曲げていないことだ。近年のIWCは好んで針の先端を曲げるようになったが、本作はあえてのストレート。マニア的には曲げたほうが見栄え良くよく感じるが、おそらくは、先端を曲げた長い針が、たわんだ際に文字盤に接触することを嫌ったためだろう。

ビッグ・パイロット・ウォッチ 43 文字盤

ツヤを消すと視認性は上がるが、高級感は損なわれる。IWCのスポーツ系は、この両立が実に上手い。本作の文字盤は、下地に強いサテンを施し、メッキで彩色した後に、つや消しラッカーを表面に軽く吹いたもの。強い光源下にあっても、ギリギリ白濁しない程度に抑えられている。針とのコントラストも見事だ。

つい手巻きしたくなる大きなリュウズ

 ビッグ・パイロットらしい大きなリュウズも、ガタをよく抑えてある。これだけ大きいと手巻きしたくなるが、自動巻き機構にセラミックスを多用した82000系ならば、手巻きを多用しても問題は少ないだろう。ちなみに筆者は、かつて巨大なリュウズを持つクロノスイスの「タイムマスター40」を持っていた。リュウズが大きいと、つい手で巻きたくなる。その結果、搭載するETA2892A2はどうにもならないほど摩耗してしまった。そういった心配は、82000系を載せたビッグ・パイロット・ウォッチ 43ならばまずないだろう。

ビッグ・パイロット・ウォッチ リュウズ

ビッグ・パイロットたるゆえんが巨大なリュウズ。ついつい手巻きをしたくなるが、本作ならば心配無用。セラミックスを多用した自動巻き機構は、手巻きをしても摩耗しにくい。


ブレスレット/ストラップの交換は実に簡単

EasX-CHANGE システム

ビッグ・パイロットもインターチェンジャブルに。新しい「EasX-CHANGE」システムにより、専用工具を使うことなく、ストラップとブレスレットを交換できる。ガタの小ささは、さすがIWCだ。

 2021年のパイロット・ウォッチは新開発の「EasX-CHANGE」システムを搭載することで、ブレスレットとストラップがインターチェンジャブルになった。写真が示すとおり、取り付け部は頑強で、強いショックを与えても外れることはなさそうだ。またおなじみのブレスレットも、相変わらず質が良い。マークXVの頃は使うと金属粉で袖が汚れ、以降のものはそれを避けるために設計を変えたが、IWCのブレスレットらしいかっちり感がやや損なわれた。対して最近のパイロット・ウォッチ用ブレスレットは、袖を汚すこともないし、IWCらしい剛性感もある。正直軽いブレスレットではないが、重いビッグ・パイロットとならば、バランスは取れている。

バックルのみが弱点か

 唯一の弱点は、レザーとラバーに取り付けられるデプロイメントバックルだ。あくまで推測だが、IWCはデスクワークでも使えるよう、バックルを薄く仕立てた。これが開閉用のプッシュボタンがない理由だろう。またストラップを交換しやすくするためか、46mmサイズのバックルに比べて、かなり開きやすくなった。普通の時計ならば問題ないが、頭の重いビッグ・パイロット・ウォッチの場合、強いショックを与えると簡単に開いてしまうだろう。重さを考えれば、バックルはブッシュボタン式に改めるべきではないか。


結論:ミリタリーテイストと上質さの巧みな両立

 さて結論である。良質な外装と、頑強で高効率な自動巻きを載せたIWCのビッグ・パイロット・ウォッチ。新しい43mmモデルは、その特徴を受け継ぎつつも、細腕の人にも優しいモデルである。ビッグ・パイロットはほしいけど、サイズが無理という人にはうってつけのモデルではないか。筆者は2週間ほど借りたが、正直返すのが残念で仕方なかった。筆者はガチのIWCファンだから評価は甘いが、これは素直にいい時計だと思う。とりわけ、ミリタリーテイストと上質さの両立は群を抜いている。興味のある方は、ぜひぜひ店頭でトライあれ。


IWC【2021 新作】従来よりサイズダウンされた「ビッグ・パイロット・ウォッチ43」

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