光と陰の狭間に美を見いだす
唯一無二のマスターピース
全面的な見直しにより、さらに完成度を高めたグランドセイコーのコンスタントフォース・トゥールビヨン。加えてグランドセイコーは、このムーブメントにふさわしい外装の開発にも着手した。新しいグランドセイコーのフラッグシップは、どういったデザインの外装を持つべきなのか?設計者とデザイナーが完成させたのが、「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」である。
東京・銀座に開設される新スタジオ「アトリエ銀座」。その第1弾がCal.9ST1を搭載した本作である。グランドセイコーのデザインを踏襲しつつも、スケルトナイズされたムーブメントのレイヤー感を巧みに表現した外装を持つ。手巻き(Cal.9ST1)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間(内コンスタントフォース作動時間は約50時間)。Pt950×ブリリアントハードチタン(直径43.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。世界限定20本。4400万円(税込み)。
【ブランド公式ページ】 https://www.grand-seiko.com/jp-ja/collections/slgt003
プロトタイプのムーブメントだったT0を市販するには外装が必要になる。しかもそれはかつてない機構とデザインを持つ中身に相応しいだけでなく、いわゆる「セイコースタイル」も踏襲する必要がある。デザイナーの石原悠はこう語る。
「時計のデザインを手掛けるにあたって、内側と外側を分けたくはなかった。すべての要素を有機的に一体化したかった」。T0と後継機の9ST1は何層もの部品で構成される、かなり立体的なムーブメントだ。対して石原は、光を多面で反射し、影を立体的に落とすため、ケースを複数の部品に分け、肉抜きされたムーブメントの多層感をラグでも表現してみせた。
有機的な一体化を象徴するのが文字盤のメッキ処理である。外装とムーブメントは別工程で作られるため、両者を完全に同じ色にすることは非常に困難である。対してKodoは、文字盤とムーブメントのメッキ処理後の色味まで揃うように調整した。ムーブメントと文字盤が揃って見える理由だ。「グランドセイコーの特徴である光と陰を表現するため、モノトーンに整えた。そしてムーブメントの特徴である絶妙なグレートーンを外装でも再現したかった」(石原)。
ムーブメントの固定方法も今までのグランドセイコーとは異なる。ムーブメントを固定するスペーサーをムーブメント部品同様に仕上げ、共にケースに直留めしたのである。その結果、ムーブメントはケースいっぱいに広がるようになった。
トルクを安定供給するコンスタントフォースとトゥールビヨンのキャリッジを、完全な同軸で一体化した初のトゥールビヨン。1秒間に8振動するトゥールビヨンの刻音と、1秒間に1回トルクを解放するコンスタントフォースの作動音がシンクロする。手巻き(直径36.3mm、厚さ8.22mm)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間(内コンスタントフォース作動時間は約50時間)。
ケース素材の組み合わせもやはり今までにないものだ。採用されたのは、プラチナとブリリアントハードチタンというまったく性質の異なるふたつの素材のコンビネーションである。「9ST1の先進性はチタンで、そして稀少性は貴金属によって表現した。ケースの外側にブリリアントハードチタンを採用したのは、摩擦に強く、美しさを保ちやすいから」。複数の素材で構成されるKodoのケースは、モノトーンだが、ムーブメントに同じく、決して単調ではない。もっとも、外装の出来が良いだけでは、グランドセイコーは名乗れない。
「外装部品の精度はかなり詰めたが、今まで培ってきた製造技術や設計寸法の積み重ねで実現している。また、どうしても10気圧防水は実現したかった」(石原)。できるだけムーブメントを見せるため、複数の部品に分割されたKodoのベゼルは量産品ではありえないほど細い。理論上は防水性能を上げられないが、長年にわたり培われてきた製造技術が、それを可能にしたのである。
裏側から見た「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」。写真が示す通り、直径35mmのムーブメントが、43.8mm径のケースぎりぎりに収まっているのが見て取れる。トゥールビヨンの周囲に見える「SIXTEENTH NOTE FEEL」とは、ムーブメントの刻音が、音楽的な16ビートを奏でることを意味している。本作はその独創的な機構が生み出す音色から、心臓の鼓動を意味する「Kodo」の名を与えられた。
視認性への配慮も、グランドセイコーならではだ。文字盤が12時位置にあるKodoは、どうしても文字盤の面積が小さくなってしまう。そこで文字盤やインデックスの立体感を増し、針の厚みを1.25倍にすることで視認性を高めた。加えて、より時間を見やすくするため、時針の先端には新たな斜面が追加された。
Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨンがもたらす圧倒的な存在感。それは、内外装を統一するという執念がもたらした当然の帰結と言えそうだ。かつてない時計を作り上げるという開発チームの強い決意は、ついに歴史に残るマスターピースを完成させたのである。
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