着用感は良いがタイトフィットは必須
時計を受け取り、着用した瞬間の感想は「思っていたより大きい」であった。この大きさの感想を誤解なきように具体的に述べると「ショーケース越しや手に取って見た時の感覚よりも、腕に載せた際に存在感がある」というものであった。ケースは、直径39.5mm、厚さ14.1mmであり、現代基準でアンダー40mmならば、標準的あるいは、ややコンパクトに分類されるだろう。
この点から考えて「大きい」という感覚は、おそらく“広く取られたダイアル”や“しっかりしたブレスレット”、“ケース径に比して厚みのあるケース”が影響しているのであろう。また、他のグランドセイコーのラインナップと同様に、それなりに重量があるモデルである。コマ未調整状態で150g、手元での実測結果によれば2コマ外して約140gであった。この重量感も、持った時の「大きい」印象につながっている可能性がある。
では装着感に注目しよう。ケース径39.5mmでラグの飛び出しも控えめであり、周長17.5cmの筆者の手首に十分に収まるサイズ感である。手首の上でまだ幾分かの余裕があるので、筆者より手首の細い方でも綺麗にフィットすることだろう。ブレスレットの可動域が広く、その動きは滑らかだ。そのため手首へのフィット感が良く、重量を上手く分散してくれる。
また、ブレスレットは19-18mmとテーパーが緩やかで厚みもあり重量がそれなりにあるので、ヘッドの重量とのバランスを考慮して調整されている。さらに、バックル部は薄く仕立てられておりデスクワークに適する。これらを総合して、着用感は良好であると評価したい。また、ブレスレットの中コマのポリッシュ部分は別部品となっていて外観の仕上がりも上々である。
ただし注意も必要だ。この評価はタイトフィットさせた際のものだ。少しルーズに調整すると時計の暴れを感じるようになり、約140gの重量のネガティブ面が目立ちやすくなる。これを回避するためには、不快にならない程度のタイトフィットを見つけ出す事が必要だが、それなりに難しいし、その日の体調や時間帯によって多少の変化もある。
この問題へのソリューションはブレスレットの微調整機構であるが、残念ながら今作にはそれは備わっておらず、調整はコマの着け外しによって行わなければならない。調整機構は昨今のトレンドのひとつであるので、(薄いバックルとの両立は難しいことを理解しているが)グランドセイコーにはぜひとも取り組んでいただきたい課題のひとつだ。
もう一点、今作で希望するのは防水性能の向上である。今作は日常生活用防水である。グランドセイコーのことだから、十分なマージンを取った上での表記であることを理解しているが、なまじ相場観を知っている身からすると神経質にならざるを得ない。
伝家の宝刀"10振動"を携えた「Cal.9S86」
グランドセイコー(およびセイコー)の独自技術や得意技術は多岐にわたるが、その中でも歴史があり、特別な存在であるのが10振動、すなわち3万6000振動/時のハイビートだ。今作に搭載されるCal.9S86は3万6000振動/時のGMT表示機能付きムーブメントである。3時位置にデイト表示を備え、時分秒針に加えてGMT針を備える。リュウズを2段引くとGMT針と連動した時刻修正で、1段目に戻すと時針の単独修正となり、デイトの修正は時針の単独修正機能によって行う。
安定して10振動を実現し、スイスのクロノメーター規格よりも厳しい「新GS規格」をクリアするCal.9S86の完成度は今更述べるまでもない。10振動機の秒針の動きは、8振動(2万8800振動/時)に慣れた筆者の目から見ても滑らかであり、高精度を実現する以外にもメリットがあることを感じさせる。
また優れた仕上げが楽しめる点も特徴である。9S系ムーブメントではプレートやローターにクッキリとしたストライプ模様が施されている。写真では再現できなかったが模様が虹を引いており、丁寧な仕上げが目を楽しませてくれる。今作はハイビート機の為にやや高価であるが、50万円台のCal.9S65搭載機でも同様の仕上げが施される点はグランドセイコーの良心であるだろう。
操作感に着目しよう。時刻調整はなめらかかつ適度なトルクがあって好ましい。時針単独修正も明確なクリック感がある。気になったことは、動き出しが重くてかなり巻き上げてやらないと起動しなかったことと、日付修正では時針をぐるぐる回さなければならず面倒さがあったことの2点である。ただ、セイコーの10振動機は伝統的に動き出しが重いのであるが軽く振動を与えると動いてくれることと、GMT表示機能を有したモデルでは一般的な“面倒なポイント”であることを鑑みると、これらを減点要素とするのは気が引ける。