『クロノス日本版』の編集部員が話題モデルをインプレッションし、語り合う連載。今回は、編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、ほそやんこと細田雄人、そして新人の土井康希の4人で、チュチマ「パトリア」を好き勝手に論評する。
阿形美子:文 Text by Yoshiko Agata
2022年8月31日公開記事
創業地グラスヒュッテに本社が帰還したことを記念して開発された自社製手巻きムーブメントを搭載。シースルーバックからは筋目を施した3/4プレートやチラネジ付きテンプなど伝統的なグラスヒュッテ様式のディテールがのぞく。手巻き(Cal.617)。20石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径43mm、厚さ11mm)。5気圧防水。95万7000円(税込み)。
SSモデルはドレッシーなブルーか、モダンなグレーか
細田チュチマの「パトリア」は、2013年にゴールド製ケースで発表され、2019年にSS製ケースが追加されています。最大の特徴は、大型の自社製ムーブメントを搭載しているところ。
鈴木だからケース径も大きめで、直径43mm、厚さ11mmだね。
細田典型的なグラスヒュッテ様式の3/4プレートでありながらも、フリースプラングを採用するなど、自社製としてはかなり頑張っていると思います。当初、SSは60万円台だったので、非常にコスパの高いモデルとして一部のマニアから大歓迎されていましたが、今は円安や時計業界の全体的な価格高騰の関係で、100万円弱ぐらいまで上がっています。それを踏まえた上で、今でも見合った価値があるのかといった点も含めて討論会をしたいなと思っています。
鈴木最初から価格の話が出てきたけど、これ、初出の頃の価格(69万8000円、税別)だったらめちゃくちゃお買い得だと思ったけど、ここまで上がっちゃうと……まぁ、でもまだありかな。実際に付けてみて、満足感は高い時計でした。
細田今回、ブルー文字盤を僕と幸也さん、グレー文字盤をハカセと土井くんが試しました。ブルーの方は非常に艶のある文字盤で、逆にグレーはマットな仕上げですが、皆さんどちらが好みですか? ラインナップとしては、ブルーが定番色で、グレーは2022年から追加されたものです。
鈴木これは好みで分かれるよね。
広田グレーは艶消しラッカーで、ザラッとした仕上げが実用時計っぽくていいなと思うなあ。
鈴木実用性を考えたらツヤ消しなのかなぁ。色んなシチュエーションに対応できるし。
土井チュチマはミリタリーウォッチのイメージが強いので、この質感は納得でした。
細田グレー文字盤の視認性はどうでしたか? やっぱり反射しないですか。
土井五分ごとのインデックスなので、1分ごとは目視なんですけど、それでも時間はすごく見やすかったです。
細田対して、ブルー文字盤はポリッシュラッカーでしたが、幸也さんどうでした?
鈴木やっぱり、ブルーで艶があるとキレイだし、着けていてとても気分が良かったですね。
細田チュチマというブランドを考えると、先ほど土井くんが言った通りグレーの方が“らしい”んですけど、そもそもパトリア自体がチュチマの他のモデルと比べて毛色の違う時計なので……。ケースの造形とか磨きとかを総合的に考えると、ブルーの方が自然なのかな、という気もしなくはないです。
土井ブルー文字盤の方は、ケース全体がポリッシュなので、時計全体として統一感がありますね。それから、ストラップも文字盤に合わせて仕上げ分けているのも特徴かと。素材は両方ともアリゲーターですが、ブルーは厚めで艶のある仕上げ、グレーは薄めで表面がマットです。
鈴木ブルーのストラップは、短時間使った感想としてはちょっと硬かった。時計が大きいからどうしてもそれに負けない作りにしていて、長く使えばなじむんだろうけど。
土井あと、腕の細い人の場合は、ストラップの穴を増やす必要があると思います。ストラップの穴の位置が結構大きいところにしかないので……。
細田やっぱりそこはドイツ人向けなのかな。
土井ラグ幅が21mmとあまり市販にないサイズなのも、ちょっとネックですね。僕は純正ではサイズが合わなかったので、私物の幅22mmのストラップを着けました(笑)
ディテールや磨きまで、成熟したパッケージング
細田あとは、針の側面の仕上げが非常に気になったんですけど、皆さんどうでした?
鈴木このザラっとしたのは切りっぱなしなのか、あえてやっているのか、だよね。
細田エッジが斜めに入っているので、意図的だとは思うんですけど……。ただ、切りっぱなしにも見えてしまうというのは、美しくないということだと思うので、そこがちょっともったいないですね。
鈴木艶消しのエッジ処理をするなら、もう少し細かくすると分かりやすいかな。
土井一方で、針の根元部分のハカマはすごくしっかりした作りで、これは見どころですね。
細田そうそう。今回撮ってくれたフォトグラファーも時計をたくさん撮ってきた方なわけですが、ハカマにはびっくりしていました。こんなにしっかりしているのは凄いと。チュチマって針も自社製なんですか?
広田多分、ヨーロッパから買っているはずだけど、ちゃんとしたサプライヤーから仕入れているんだと思う。ケースやストラップの処理も良くできていて、細かい部分をちゃんと詰めている印象がある。
鈴木パッケージとしてコントロールできるところが、メーカーとして成熟していますね。
広田小メーカーにありがちな、残念ながら一部抜けちゃった、みたいなところがない。
鈴木そういう意味では、全体としてすごく完成度も満足度も高い時計だなと思います。
細田それから、ケースの磨きも凄く良かったですね。いかがですか、ケースサイドから見たプロポーションとか。
土井歪みがあまり見られなくて、すごくキレイだと思いました。僕が特に良いと思ったのは、ラグの間までしっかり面の歪みがなくポリッシュされているところです。
細田高価格帯の時計でも、ケースサイドは良くても、ラグは歪んでいるところって割と多いですもんね。ラグはロウ付けですか?
広田いや、これはSSだから一体成形。
細田そっか。それだと、なおさら磨きにくいから凄い。
鈴木斜めから見てプロポーションが良いのは、時計として非常に評価できますね。