ジラール・ペルゴもうひとつのアイコンを再評価する。「ヴィンテージ1945 グレー 日本限定モデル」の魅力とは

FEATUREその他
2022.12.05

日本限定モデル最新版に見るヴィンテージ1945の魅力

 では、最新作である日本限定モデルを基に、コレクションの魅力を探っていきたい。今回発表された「ヴィンテージ1945 グレー 日本限定モデル」は、日本限定200本の希少モデル。特徴的なフォントのインデックスは、ダイアルを伸びやかに見せつつも、薄いグレーを用いることで針の鮮やかさを引き立てており、“ヴィンテージ”という名を冠しているものの、端々にはモダンウォッチとしての要素が散りばめられている。

大きく湾曲したエルゴノミックケース

 ヴィンテージ1945を大きく特徴付けているのが、ケースバックを含めて大きく湾曲したケースだ。45年のオリジナルでも湾曲したミドルケースを採用していたが、ケースバックはフラットであり、あくまでも当時の流行を意識した結果のデザインであった。

ヴィンテージ1945 ケースサイド

ヴィンテージ1945の特徴である大きく湾曲したケースデザイン。正面からは直線が目立つケースサイドやベゼルも、角度によっては丸みを帯びた優しい表情を見せる。

 腕時計とはもちろん、手首に巻いて使用することを前提としたプロダクトだ。ヴィンテージ1945の湾曲したケースバックは手首に優しく沿い、優れた装着感をもたらした。エルゴノミックなデザインを好んだマカルーソは、30年代以降のアメリカで流行したケースデザインを実用的な意匠として昇華させたのだ。その湾曲具合は、年代やシリーズによって複数のバリエーションが見られ、同社が絶えず創意工夫を繰り返していることがうかがえる。

 ケースバックと同様、ケースサイドやラグも丸みを帯びた形状を持つ。特に、オリジナルから色濃く受け継がれた要素が、一段盛り上がったラグの付け根だ。これによってケースの立体感が高められており、厚さ10mmを切る薄型ケースでありながら、確かな存在感を発揮している。

ヴィンテージ1945 日本限定

湾曲したケースは、優れた着用感をもたらすだけではなく、薄型のケースに立体感をも与えている。オリジナルと同様に一段盛り上がったラグの付け根は、現行モデルでも健在だ。

 加えて薄型のリュウズを採用することによって、ケースサイドの余分な突起をなくし、アールデコ様式の直線を基調としたラインを際立たせている。変形ケースや薄型のリュウズを採用した際にネックとなるのが防水性の確保だが、きちんと日常生活防水レベルをクリアしている点も付け加えておきたい。

立体的な文字盤

 シルバーの文字盤には、9時位置にスモールセコンド、1時半位置にデイト窓を配している。デイトの位置は一見ユニークだが、レクタンギュラーの文字盤で最も余白の大きい1時半-7時半位置の対角線上に配することで、窮屈さを感じさせないばかりか、特徴的なインデックスと共に文字盤に躍動感を与えている。左腕に着用した際には、デイト窓が袖口から自然と見やすい角度となり、実用面からも理に適っている。

ヴィンテージ1945 日本限定

ケース同様にカーブを描く文字盤。スモールセコンドやデイトリングは平面のため、縁に高低差ができている。これが大きな立体感を生み、文字盤の湾曲を視覚的にも強調している。

 ケース同様、文字盤にも強いカーブがかけられ、中心部と外端で高低差が出ている。スモールセコンドとデイト窓は、そのことを強調するディティールとしても重要なポイントだ。曲面を主体とした文字盤の中において、平面を持つこれらは、中心に近いほど縁の段差が大きく、反対に外周に近いほど縁の段差が小さくなっている。これによって生み出された立体感が、ヴィンテージ1945の魅力を増幅させているのだ。

 凝った文字盤につきものとなるのが、判読性との両立をいかにして果たすかだ。一般的に、針とインデックスの間に高低差があればあるほど、針がどこを指しているのかが分かりにくくなる。正面から読み取る際には苦労しないだろうが、腕時計は、斜めから読み取ることも多いだろう。

 しかし、今作ではミニッツマーカーを内側に配することで針との隙間を詰め、難なく時刻を読み取れるようにしている。また、ミニッツマーカーを境に、その内側にギヨシェ装飾を施すことで、文字盤にメリハリをつけることにも成功している。

ケースと面がそろえられたカーブドサファイア風防

 随所に曲面を取り入れたヴィンテージ1945。その統一感を一層高めているのが、文字盤を覆う風防だ。ケースと同様に湾曲しているのは変わらないが、大きく盛り上がったオリジナルとは異なり、現行の風防はベゼルとツライチに仕立てられている。これによって風防がベゼルに溶け込み、ケースとの連続性が生み出されている。加えて、風防の素材は、アクリルから耐傷性に優れたサファイアクリスタルへと改められ、実用性も高められている。

 ケースと風防だけではなく、時計全体に連続性をもたらしている要素が、グレーのアリゲーターストラップだ。一見すると汎用的な形状のようだが、ケース裏面から見ると分かるように、ストラップはラグの間にピタリと噛み合っている。これによって、ケースとストラップのクリアランスは極限まで詰められ、風防からベゼル、そしてストラップへ滑らかにつながった一体感を醸成しているのである。

ヴィンテージ1945 風防

やはり湾曲しているサファイアクリスタル製の風防。その加工に相応のコストがかかっていることは言うまでもない。風防の高さはベゼルにぴったりとそろえられ、ストラップにまでつながる優雅なラインを形成している。

 今作にはフォールディングバックルが採用されており、着脱のし易さとストラップの長寿命化を叶えている。特殊形状のストラップだからこそ、フォールディングバックルが標準装備されているのはありがたいポイントだ。

 一貫して、湾曲したケースに調和するディティールを与えられた、ヴィンテージ1945。ケース自体はもちろんのこと、文字盤や風防、ストラップまで相当のコストが掛けられていることが分かる。細部に至るまで破綻が見られないのは、建築学博士でもあるマカルーソの精神が、誕生から30年近く経つ現在においても大切に受け継がれているからだろう。


唯一無二の個性を持つアイコンシリーズ

 そんな唯一無二の個性を持つヴィンテージ1945を陰ながら支えているのが、同社が誇る基幹ムーブメント、Cal.GP03300だ。基本的な設計を94年のキャリバーGP3100にさかのぼり、かつ現在に至るまで度重なる改良を加えられたこのムーブメントは、自動巻きでありながら厚さ僅か3.2mm。搭載した時計に安定した駆動をもたらすだけではなく、湾曲したケースを適切な厚みへと抑えることにも貢献している。

 単に優れた外装を持つだけではなく、ムーブメントも含む優れたパッケージこそが、ヴィンテージ1945をロングセラーモデルとしているのである。

Cal.GP03300

ケースバックからは熟成を重ねた基幹ムーブメント、Cal.GP03300を鑑賞することができる。その起源は1994年にさかのぼり、かつて名立たるブランドがこぞって採用した。元祖マニュファクチュール、ジラール・ぺルゴの矜持を示すムーブメントだ。

 また、ヴィンテージ1945は誕生以来、シンプルなスモールセコンド付き3針以外にも、トゥールビヨンやムーンフェイズ、クロノグラフをはじめとする複雑機構搭載モデルの数々をラインナップしてきた。

 極めつけは、同社が1867年に発表した懐中時計に着想を得た、スリー・ゴールドブリッジ付きトゥールビヨン搭載モデルだろう。これらは当然、それぞれ異なる個性を与えられていたが、基本的なケース形状を共有することで、ひと目で血のつながりを認識可能であった。

 自社の歩んできた道を否定することなく、しかしながら確実に前進していくために、何を不変とすべきなのか。その心得をしっかりと持ち合わせているからこそ、ヴィンテージ1945はアイコニックな存在としてラインナップし続けているのである。


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アイコニックピースの肖像/ジラール・ペルゴ「ヴィンテージ 1945」

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