プロダクトとしての完成度の高さは文字盤の質に表れる
もっとも、多くの人にとって一層関心があるのは、文字盤の仕上げだろう。多くの24時間時計が、ミリタリー風のプリントインデックスを持つのに対して、本作はきちんとしたアプライドを持っている。表示を24時間にすると、インデックスの数が増えて取り付けは難しくなる。
筆者の知る限り、本作は初のアプライドを採用した24時間時計ではないか。歩留まりは悪そうだが、それを実現したところに今のパテック フィリップの強みがある。開発責任者のフィリップ・バラが「ムーブメント以上に手間がかかったのは文字盤」と語ったのも納得だ。
ベースの仕上げも面白い。鏡面仕上げの針やインデックスを引き立てるため、ブルーの文字盤はつや消し仕上げである。製法はメッキではなくなんとPVD。
開発責任者のフィリップ・バラはこう語る「PVDを採用した理由は、表面にザポン(筆者注:表面を保護するためのクリアラッカー)を施す必要がないためだ。というのもメッキと違ってPVDは経年変化を起こさない。もっとも、PVDでこのブルーを出すのは非常に難しかった。かなりの数のサンプルを製作したよ」。
彼が説明したとおり、トラベルタイム 5224の文字盤は、強い光源にさらしても白濁したように見えない。表面にラッカーを吹かないからこそのニュアンス、と言えるだろう。パテック フィリップは、文字盤の繊細さを生かし、さらに視認性を高めるため、あえてPVDを選んだというわけだ。
関係者から聞く限りでいうと、PVDで鮮やかな発色を得るのは意外と難しい。文字盤の仕上がりを見て筆者はメッキ仕上げと予想したが、まさかPVDでここまでの色を得るとは思ってもみなかった。
フィリップ・バラがいうには「同じ色であっても、下地の処理を変えることで、見え方は大きく変わる。今年は様々なモデルで、下地処理を変えた」とのこと。詳細は不明だが、パテック フィリップのノウハウがあればこその鮮やかなブルーと言えるだろう。
やはり欠点は入手困難なことのみ
さて結論である。今時珍しい24時間時計を、パテック フィリップの技術力で昇華させた本作は、24時間表示の腕時計の完成形と言って良い。ブースで確認しただけだが、優れた装着感、比類ない感触、そして凝った文字盤といった要素は、何物にも代えがたい。
ただの時計と思えば771万1000円という価格は法外だが、この質感を考えればむしろ妥当かもしれない。24時間時計だから人気はないはず、と予想しているが、本作もやはり入手は難しいに違いない。これが本作の、ほぼ唯一の欠点である。
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