文字盤のカラーリングと意匠で多様化を狙うクロノマット 44
内外装の完成度で言えば、間違いなくクロノマット 44は歴代クロノマットの頂点にある。しかもファーストモデルがそうであったように、このクロノグラフは「ファッショナブル」であることを、決して忘れていない。具体的には、豊富なストラップであり、複数の仕上げとカラーリングを併用した文字盤である。ではクロノマット 44のバリエーションを、ごく一部だが、見ていくことにしよう。
意匠が従来のクロノマットと趣を異にする点はさておき(やがて見慣れるかもしれないにせよ)、優れた内外装を持つ「クロノマット 44」は、見事なほどクロノマットの完成型と言えるだろう。
まずこの時計で目を惹くのが、ケースである。1999年のRef.13350以降、急激に向上した質感は「クロノマット2000」「クロノマット・エボリューション」を経て、クロノマット 44で完成を見た。ケースの平滑さに関して言えば、クロノマット2000と現行品はほとんど同等である。なおどちらも製法は冷間鍛造である。素材をプレスし、約1100℃で加熱し、残留応力を抜く。立体感は与えにくいが、金属の目が詰まるためケースが頑強になり、鏡面も美しく仕上がる。クロノマット 44ではこのプロセスを15回繰り返し、ケースを成形する。プレスの回数は異なるが、クロノマット2000でも製法は同じであり、つまり仕上がりは大きく変わらない。
これら3つの大きな違いは、部品の「立て付け」、厳密に言えば、部品のチリ合わせが改善した点にある。例えば、風防を支えるリングと回転ベゼルのクリアランス。モデルチェンジのたびに間隔は詰まり、90年代のモデルにあったガタは見られない。ベゼルの操作感も緻密になり、軽快さよりも、高級さを感じさせるに至った。セキュリティ・プッシュボタンを回す際の適度な重みも、良質さを感じさせる一因だろう。
文字盤の質感も、やはりモデルチェンジのたびに改善された。申し分のない完成度を得たのは先代だが、新しいクロノマット 44はバリエーションの豊富さと、ディテールの積極的な使い分けに特徴がある。その、基礎を固めてバリエーションを増やすという手法は、見事に「ブライトリング的」と言えるだろう。例えば、SSとコンビ/ゴールドモデルの違い。SSの文字盤は、文字盤全体の下地処理にサテン仕上げを施している。しかしラッカーの厚みと、塗膜の荒らし方を変えて中心部と外周部のニュアンスと色味を分けている。若干荒らした、しかしツヤの残った文字盤は、例えば「スーパーオーシャン 42(生産終了)」が示すように、近年のブライトリングの真骨頂である。対してコンビ/ゴールドモデル。これはラップフィルムで研磨したツヤのあるラッカー仕上げ(ロレックスのスポーツモデルに同じ)の文字盤を持つ。ただし四角く抜いた中心部には、さらに色を重ね、ニュアンスの違いを出している。SSには若干荒らした文字盤を、コンビ/ゴールドモデルには、より「色気のある」文字盤を、という配慮だろう。加えてクロノマット 44でも、コンビモデルのライダータブは、18Kのソリッドゴールドが採用されている。些細な部分だが、やはり質感を高めるアクセントとなっている。
なおブライトリングはサプライヤーを競わせて完成度を高め、維持する、という手法に巧みであり、これは文字盤の納入業者も例外ではない。しかし、これだけ様々なモデルを並べても、質感が揃っているのは見事である。文字盤の「揃い方」を見れば、ブライトリングが70ものサプライヤーから協力を仰いでクロノマット 44を完成させたのも納得である。
クロノマット 44が、従来以上に存在を誇示するルックスを備えた点は否めない。従来モデルとの連続性を感じさせるには、ベゼルの幅をもう少し絞ったほうが良かったのではないか、とは思う。ただしこの新しい意匠を許容できる、あるいは好む人にとって、クロノマット 44のバリエーションと圧倒的な質感は、手に取るだけの価値がある。確かにクロノマットより価格は上昇した。しかし公正に言って、内容の充実は、価格の上昇を上回ってなおあまりあるだろう。