継承される黄金比の伝統
より大きな変化は、2011年の「グランド・レベルソ・ウルトラスリム」に見られる。もともとレベルソのケースは、黄金比で成り立っている。横を1とすると、縦は約1.618。構成要素のほとんどを数学的に分割できてしまうのがレベルソの特徴である。余談であるが、数学的な要素は外装に限らない。かつてレベルソが搭載したキャリバー11や、1992年発表のキャリバー822も、輪列の配置はほとんど正三角形や正方形に分割できた。これらのキャリバーはレベルソ専用ではない。だが、レベルソへの搭載を前提としたことは、その「数学的な」輪列からも見て取れよう。
現代のジャガー・ルクルトが取り組んだのは「プロファイル」、つまりケースサイドの改善である。防水性を高めた第2世代(正しく言えば第3世代)のケースは、従来に比較してラグが高い。しかし、「ウルトラスリム」は角度を33度に落とし、腰高感を減少させた。その半面、文字盤のギョーシェを深く彫り下げることで、時計全体の立体感が強まった。薄さと立体感を巧みに両立させた試みが、新作のウルトラスリムと言えよう。薄く見せるためのアプローチは2010年の「グランド・レベルソ」に近い。しかし、立体感を盛り込んだ分、手法はより洗練されている。
近年の大きな変化は、もちろんデザイナーの手腕のみに帰せられるわけではなさそうだ。事実、デレスケヴィクスは次のように述べている。「ツールの性能が向上したおかげで、かつては実現できなかった精密なディテールを与えることができるようになった」。ジャガー・ルクルトがケースを内製化したのは1985年のこと。90年代には、針と文字盤も内製化された。その帰結が、現代のレベルソと言えるのではないだろうか。
現行のレベルソが持つ見事なバランス。これは、マニュファクチュールとしての成熟とおそらくは同義であるに違いない。