大型化・複雑化によって多様化する「レベルソ」ファミリー
ジェローム・ランベールがジャガー・ルクルトのCEOを務めた時代に、さらにバリエーションを増したレベルソ。
ケースサイズの拡大を伴った「実のある」複雑化が、多くの愛好家にアピールしたことは間違いない。しかし、その半面、レベルソコレクションの全容は、よほどのコレクターであっても分かりづらいものとなった。
そこで主な標準モデルの外装を、そのディテールに着目して比較してみたい。
初出は2004年だが、2006年に若干改良された。文字盤の細部が変更され、第2時間帯を操作するプッシュボタンがラウンドからスクエアに改められた。一見、同じに見えても、必ず手を入れるのがジャガー・ルクルト流である。手巻き(Cal.854/1)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS。30m防水。99万円。
(下)レベルソ・グランド GMT
初出2004年。8日巻きの手巻きムーブメント(Cal.874)がベースのGMTである。デビュー以来、デザインも機能も不変のモデル 。重厚な「グランドケース」に対応するためには写真のような肉厚のストラップがふさわしいだろう。手巻き(Cal.878)。35石。2万8800振動/時。18KPG。30m防水。290万円。
現在、男性用のレベルソには大きく3種類のケースがある。1931年モデルとほぼ同寸の「クラシックケース」、やや大きめの「ビッグケース(グラン・タイユ=GTケース)」、さらに大きな「グランドケース(エックス・グラン・タイユ=XGTケース)」だ。グランドケースはさらに分類できる。大別すると、「976」「986デュオデイト」、そして「ウルトラスリム」用のケースである。
本ページのモデルに沿って、大きさの違いを説明したい。まずは「レベルソ・グランド GMT」。2003年初出のグランドケースを踏襲しており、サイズは縦46.5×横29.25㎜、厚さ12㎜である。対して、「レベルソ・デュオ」が採用するのはビッグケース。縦42.2×横26㎜、厚さ9.3㎜と、サイズは1991年の「60周年記念モデル」に同じだ。
グランドケースにあって、明らかに方向性が違うのは「グランド・レベルソ 976」と「グランド・レベルソ・ウルトラスリム」である。前者は縦48.5×横30㎜もあるが、厚さは9.7㎜しかない。この流れを引き継いだのが後者である。縦46.8×横27.4㎜、厚さも7.27㎜と小さくなった。いずれもグランドらしからぬ薄型ケースと言えるだろう。
初出は1988年。文字盤のニュアンスは現行品も変わっていない。しかし、他のモデルに同じく、インデックスが若干拡大された(2006年頃)。搭載するのは1975年発表のCal.846/1。小径だが、優れたムーブメントである。手巻き。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KYG。30m防水。
(中左)ビッグ・レベルソ
今に残る傑作中の傑作。「クラシック」よりやや大きめのケースに、名機Cal.822を搭載する。発表以来、不変であったが、2006年頃に文字盤が全面改良され、好ましい立体感を得た。定番だけあって、部品の立て付けも良い。手巻き。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KPG。30m防水。195万円。
(中右)グランド・レベルソ・ウルトラスリム
文字盤のギョーシェ彫りの溝が半円状に変更され、どの角度から見ても美しく反射するように改良された。レイルウェイトラックの3・6・9・12時位置に三角のインデックスが与えられ、クラシカルな要素も盛り込まれた。手巻き(Cal.822)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KPG。30m防水。187万5000円。
(右)グランド・レベルソ 976
名機Cal.976を搭載したモデル。文字盤のニュアンスはかつての「シャドウ」を思わせるが、中心部とそれ以外を分けたギョーシェは「トリプティック」に近い。薄型時計に立体感を盛り込む試みのひとつだ。初出2009年。手巻き。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS。30m防水。参考商品。
そして、今なお古典的なディメンションを残すのが、「ビッグ・レベルソ」と「レベルソ・クラシック」だ。前者は縦42.2×横26㎜、厚さ9.3㎜、後者は縦38.5×横23・05㎜、厚さ7.1㎜と、グランドに比較するとかなり小さい。
こうして各モデルを比較すると、ひとくちにレベルソと言っても、サイズは多岐に渡っていることが分かる。しかし、過剰なほどのケースバリエーションは、ジャガー・ルクルトが明確な意思をもってコレクションを増やしてきたという証左だろう。例えば、2011年に発表された「グランド・レベルソ 976・エナメル」。これは「976」の文字盤違いだが、ケースの厚さを0.5㎜増やしている。理由は、厚いエナメル文字盤を採用したためである。普通のメーカーなら、ケースを共用するだろう。しかし、限定モデルのためにわざわざケースを新造したのは、いかにもジャガー・ルクルトらしい。
近年のレベルソに関して言うと、外装の完成度が大きく高まった。具体的なポイントはふたつ。文字盤にあざとくないギョーシェ彫りが施され、インデックスの印字も立体感を増した。好例は、2011年以降の「グランド・レベルソ・ウルトラスリム」で、改良されたギョーシェ彫りと印字の盛り上がりは秀逸である。また、1992年からカタログに留まるビッグ・レベルソの外装もリファインされた。長年、プレーンな文字盤を持っていたビッグ・レベルソだが、2006年に文字盤が一新され、インデックスが若干大型化されたほか、レイルウェイトラックの形状も改められ、その周囲に彫りが加えられた。また、スモールセコンドの彫り込みも、1段から2段へと変更された。時計としての立体感は、旧型よりはるかに優る。外装の質感向上は「マスター」シリーズにいっそう顕著だが、ディテールに注目すると、レベルソも確実に底上げされているのが分かる。
正直、「最新が最良である」と言える時計は決して多くはない。しかし、数少ない好例のひとつが、レベルソと言っても過言ではない。しかも、高価なコンプリケーションに限らず、定番モデルも常に改良されている点、ありきたりの定番とは隔絶している。ただし、この時計を買う際には、ひとつだけ注意すべき点がある。必ず腕に装着して判断することだ。どのレベルソを買っても、後悔しないことは保証する。しかし、実物を見ないと、サイズ感をつかみにくい点は、角型反転ケースを持つレベルソらしい特性だろう。