INGENIEUR CHRONOGRAPH RACER
「エンジニア(インヂュニア)」らしさを感じさせるモデルのひとつ。緻密な外装と理論的なムーブメントを備えている。自動巻き(Cal.89361)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。SS(直径45mm)。132万円。
耐磁性はないものの、という但し書き付きでだが、インヂュニアらしさを強く感じさせるのが、「クロノグラフ・レーサー」である。緻密なケースに高精度なムーブメント、抑えた色使いは、IWCという名からイメージする時計の要素そのものだ。2013年以降IWCは、インヂュニアに対して、F1を思わせる〝新素材〟を多く盛り込んだ。しかし直接的な名称は、このモデルにしか付けられていない。理由は、クロノグラフ・レーサーだけが、フライバック付きのクロノグラフを載せているためだろう。フライバック機構は、クロノグラフをストップさせることなく、積算を再スタートさせるものである。パイロットには不可欠な機構だが、サーキットを周回するアマチュアレーサーにもやはり意味を持つ。
キャリバー89361は、もともと「ダ・ヴィンチ」に搭載されていたムーブメントである。特徴は、12時位置に同軸積算計を載せたこと以上に、〝壊れにくいフライバック機構〟を搭載した点にある。クロノグラフとフライバックは同じレイヤーに置かれ、かつ強固なブロッキングレバーが備わっている。フライバック機構もかなり頑強にできており、基本設計者のステファン・イーネン氏が、このムーブメントに耐久性を与えようと努めたことが理解できる。筆者の見聞きした限りで言うと、フライバックを多用する人にとって、89361は、現時点で最も勧められるクロノグラフムーブメントだ。リセットの感触はやや硬いが、これは頑強なフライバック機構を搭載した代償だろう。
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最新のインヂュニアは、高耐磁性能を謳うのではなく、モダンさを強く打ち出したスポーツウォッチとなった。その中で筆者が選ぶなら、ひとつは間違いなく、このモデルである。搭載するムーブメントと、その精密な外観は、新素材など使わずとも、十分「エンジニア(インヂュニア)」的ではないか。