2004年に発表した「パトリモニー」コレクションは、1957年にヴァシュロン・コンスタンタンが発表したタイムピースから着想を得たミニマリズムの美学とメカニカルな卓越性を組み合わせる時計製造の伝統が息づいたモデルだ。誕生20周年記念した新作「パトリモニー・オートマティック」は、デザイナーのオラ・イトとのコラボレーションで実現した世界限定100本、マニア垂涎のタイムピースとなるだろう。
パトリモニー・オートマティック
2019年にスタートした「One of Not Many(少数精鋭の一人)」広告キャンペーンに起用されたフランス人デザイナー、オラ・イトとのパートナーシップにより実現した、レトロなタッチが添えられたワントーンのイエローゴールド製モデル。自動巻き(cal.2450 Q6/3)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KYGケース(直径40mm、厚さ8.55mm)。3気圧防水。世界限定100本。528万円(税込み)。
この控えめでタイムレスな新作「パトリモニー・オートマティック」は、コレクションを特徴付ける究極のシンプルさを備えている。世界限定100本のこのモデルは、イエローゴールド製の40mmケースに収められたワントーンのダイアルが、光を取り込む無数の同心円で輝くことで、ドーム状のダイアルの表面に、シンプルな円形の幾何学模様が波紋のように広がっている。
また、アプライドインデックス、パール状のミニッツトラック、ダイヤルの湾曲に沿って緩やかにカーブした針により、イエローゴールドが圧倒的な存在感を放っている。さらに6時位置に配された同系色の控えめな日付表示窓、メタリック転写によりサファイアクリスタルケースバックに配されたメゾンのロゴなど、多くのディテールがダイアルに繊細かつさりげなくレトロなタッチを加えている。
サファイアクリスタルのケースバックからは、時分秒、日付を表示する自社製自動巻きムーブメント、Cal.2450、ペルラージュ仕上げが施されたメインプレート、コート・ド・ジュネーブ模様で飾られたブリッジ、マルタ十字から着想を得たオープンワークのローターなどを鑑賞することができる。このタイムピースには、丸みを帯びたエッジのレクタンギュラー型のフォルムでアクセントが添えられた、バーガンディのカーフスキンストラップを付属、腕時計のヴィンテージな個性を強調し、ケースとダイアルの円形とのコントラストを際立たせている。
1950年代に着想を得たミニマルの美学
時計愛好家にとって、1950年代は構造の美しさを兼ね備えた傑出した薄型キャリバーの時代だった。ヴァシュロン・コンスタンタンの超薄型機械式手巻きムーブメントCal.1001とCal.1003は、明らかにこの分類に当てはまるムーブメントだ。また、1950年代は、機械的な精巧さの美的延長線上にデザインされた腕時計が登場した時代でもあった。メゾンが1957年に発表したRef.6179やRef.6187はその最たるもので、超薄型ムーブメントを搭載していた。
これらのタイムピースは、数世紀にわたり受け継がれるメゾンのヘリテージの中でも特別な位置を占めている。厚さわずか2.94mmのCal.1001は、その5つのアラベスクブリッジ構造がすぐに目に留まる設計だ。ジュネーブ・シールが刻印されたムーブメントは、その精密な調整装置により、クロノメーター認定に匹敵する品質のムーブメントといえるだろう。
1950年代初期に発表されたCal.1001は、Cal.1003の先駆け的存在である。1955年にマニュファクチュールの200周年を記念し、厚さ1.64mmの世界で最も薄いムーブメントとして発表されたCal.1003は、今日においても、これまでメゾンが製作した中で最高品質のムーブメントのひとつであると評価されている。
2004年に発表されたパトリモニー・オートマティック
2004年に発表した「パトリモニー」コレクションは、メゾンならではの控えめなデザインとエレガントなオーラが際立つ、伝統的でクラシカルな時計製造を体現していた。誕生から20年を経て、今ではメゾンを代表するコレクションのひとつとなったパトリモニーは、ラウンドケースにスリムなベゼルの組み合わせ、ドーム型のダイアルとそこに沿うように緩やかな曲線を描く細身のアプライドインデックスとバトン型の時分針、およびパール状のミニッツトラックなどのデザインコードを守ってきた。
一見シンプルな外観でありながら、その精巧なデザインの実現には極めて高度な職人技を要している。ダイアルの微細な湾曲にはミクロン単位の厳密なプレス加工が用いられ、細部へのこだわりは、緩やかな曲線を描く針やアワーマーカー、パール状のミニッツトラックにも表れている。機械による加工の後、微小なサイズの部品ひとつひとつに手作業による調整が必要とされる。
控えめな審美性は、スタイルにおいては相反して複雑な過程を必要とし、コレクションの原点に忠実な時計機構の開発をすることで実現された。メゾンはこれまでに厚さ3.90mmの手巻きのミニット・リピーターを搭載したCal.1731や、厚さ4.05mmの自動巻きパーペチュアルカレンダーを搭載したCal.1120など、極めてシンプルなものから、複雑機構を搭載できるさまざまな超薄型ムーブメントの開発を手掛けてきた。本コレクションのすべてのタイムピースには、3針からレトログラード・デイ/デイトのような複雑機構まで幅広い機械式ムーブメントを搭載している。
オラ・イト氏とは?
同氏の作品には、ミニマルかつシンプルな手法を一貫して用いながらも、ラグジュアリーの新しさと同時にタイムレスで普遍的な視覚を体現する美的コードが凝縮されている。2011年にはフランスで芸術文化勲章を受賞。2013年にはフランスのマルセイユにMAMO (「マルセイユ・モデュロール」アートセンターを設立。グザヴィエ・ヴェイヤン(2013年)、ダニエル・ビュラン(2014年)、ダン・グラハム(2015年)などの巨匠アーティストらとの展覧会も開催した。
最近の業績としては、2016年にフランスのニースで開通した新しい路面電車、ミラノ・サローネ(国際家具見本市)で発表されたカッシーナのICOチェア、その他にもパリのポンピドーセンターのパーマネントコレクションに加えられた6点の代表作などがある。さらに2017年は、アーティストのダニエル・ビュランとコラボレーションをした、エッフェル塔の近くにあるホテル、ユーマ・アーバン・ロッジ (YOOMA Urban Lodge)の建設が有名。