海洋から発想したデザイン
「マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887」は、「マリーン」のコレクションを常に特徴づけてきた大胆でスポーティなデザインを高度な複雑ムーブメントや繊細を極める手彫りの装飾に結びつけた時計である。今回ブレゲが発表したのは、スレートグレーダイヤルを配したローズゴールド・モデルだ。
「マリーン」コレクションと海洋との関連はダイヤルの中央にギヨシェ彫りで施された波頭モチーフのウェーブ模様によって強調され、アプライドのローマ数字や先端に月のモチーフをあしらったブレゲ針は18Kローズゴールドで作られている。自動巻き。57 石。2万8800振動/時。18KRG(直径43.9 mm、厚さ11.75 mm)。パワーリザーブ約80 時間。10気圧防水。2328万円(税抜)。
かつてのフランス海軍の旗艦「ロワイヤル・ルイ」の雄姿
ケースバック側は、かつてのフランス海軍の旗艦「ロワイヤル・ルイ」の姿がムーブメントのブリッジを横断して彫られている。船の全貌は4本のブリッジにまたがり、繊細なティテールがブリッジからブリッジへと次々に展開する。ムーブメントが組み上がったときに絵の各エレメントが完璧に整列するように配置するには、極めて正確な作業が求められる。香箱蓋にはコンパスローズ(羅針図)のモチーフがやはり手彫りで刻まれた。プラチナ製のペリフェラル・ローターにもブレゲ伝来のギヨシェ彫りと彫金が施され、その形状のおかげで、ムーブメントのアートワークが隅々まで遮られることなく鑑賞できる。
複雑機構の融合、パーペチュアルカレンダー・イクエーション・オブ・タイム・トゥールビヨン
この「マリーン 5887」はまた、新世代のトゥールビヨンに加え、パーペチュアルカレンダーとイクエーション・オブ・タイム(均時差)の表示も併せ持っている。ブレゲはこれらの歴史的な複雑機構を「マリーン 5887」の2 本柱に据えながら、創業者アブラアン-ルイ・ブレゲが1815年にフランス国王ルイ18 世から王国海軍時計師、すなわちフランス海軍御用達時計師に任命されたことをも想起させる時計へと作り上げた。
ランニング・イクエーション・オブ・タイム
ムーブメントの中心にはサファイアクリスタルのディスクがあり、これがイクエーション・オブ・タイム(均時差)の周期を忠実に再現しながら1年で1周する。この透明ディスクは、周縁に12か月の目盛りが記され、ディスクの下に置かれたトゥールビヨン機構も透けて見えている。ランニング・イクエーション・オブ・タイムの仕組みは“ディファレンシャル”と呼ばれる歯車のセット(差動歯車)で行われる。この巧妙な差動歯車の仕組みは、2つの独立した入力を1つの出力へと統合できる点にある。平均太陽時の分針の表示のほうは、時計のメインの輪列で行われる。一方でディスクのカムの形状をなぞるフィンガーが均時差の情報を読み取り、続いて差動歯車が真太陽時(平均太陽時+均時差)を算出するための計算式を実際に演じ、その結果が真太陽時の分針で表示される。これら2本の分針によって、時計のオーナーは平均太陽時と真太陽時を一目で読み取ることができるのだ。
パーペチュアルカレンダー
超薄型トゥールビヨン・ムーブメント
このグランド・コンプリケーションに搭載されるムーブメントは、超薄型の自動巻トゥールビヨン・キャリバー581から派生したものである。トゥールビヨンの基本的な設計コンセプトは、アブラアン-ルイ・ブレゲが特許を得た方式に根差し、それは今も変わっていない。すなわち時計の歩度を制御するテンプ、ひげゼンマイ、脱進機一式をキャリッジに収納し、これを1分間で1回転させて、重力の影響で生じる誤差を解消する仕組みはそのままである。それと同時にトゥールビヨンの設計には、チタン製のキャリッジやテンプ、シリコン製脱進機といった、現代のテクノロジーが駆使されている。またトゥールビヨンの機構自体も新た設計し直され、キャリッジが外周の歯車で駆動するようになっている。こうしてトゥールビヨンとその構成部品全体が宙に浮いているように見える効果を生んでいる。主ゼンマイにも目が向けられ、薄くする探求が進められた。ブレゲの設計者は、香箱の周囲に新たに溝を設け、この溝を利用して香箱を外から3 個のベアリング・アセンブリーで支持するように工夫して、その厚みを25%も削減することを達成した。また、パワーリザーブ表示については、ダイヤルの他の表示とのバランスを考え、8 時位置にゲージ型の表示を配置してある。