H.モーザーとMB&F(エム・ビー・アンドエフ)は共同、複数のバージョンを持つ2種類のモデルを15本限定で発表した。15本という数は、MB&Fの誕生15周年とH.モーザーのリローンチ15周年にちなんだもの。フュメダイヤルで存在感を示すH.モーザーと、「オロロジカルマシーン」で機械式時計の造形を大きく変えたMB&F。良きライバルでもある両ブランドは、互いの哲学を守りつつも、極めてユニークな共同作品を作り上げたのである。そのH.モーザー版が「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F」だ。
ふたりのクリエーターが作り上げたコラボレーションモデルにはMB&F版とH.モーザー版があり、こちらは後者。SSケースで文字盤はすべて濃淡のあるフュメダイヤル。ファンキーブルー、コズミックグリーン、バーガンディ、オフホワイト、アイスブルーの5バージョンがある。ムーブメントはラチェット式の両方向巻き上げである。自動巻き(Cal.HMC 810、直径32mm、厚さ5.5mm)。29石。2万1600振動/時。SS(直径42mm、厚さ19.5mm)。パワーリザーブ約3日間。30m防水。各色世界限定15本。950万円(税別)。今夏発売予定
H.モーザー「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー × MB&F」
H.モーザーとMB&Fのコラボレーションは、具体的な形を伴って進められた。MB&Fが提供したのは、同社のアイデンティティである三次元のムーブメントと、それを保護するサファイアクリスタルのドーム、大きく傾斜させた文字盤、そして12位置の開口部からメインダイアル上に現れるフライングトゥールビヨンの技術である。対してH.モーザーは、独自のヒゲゼンマイとフュメダイアルの技術提供を行った。確かに、両社の個性を生かしつつ、足りない部分を補っている。とりわけ、H.モーザーのグループ会社であるプレシジョン・エンジニアリングの製作した特別なヒゲゼンマイが、両社を繋ぐカギとなった。
コラボのカギとなった、プレシジョン・エンジニアリング製のヒゲゼンマイ
18世紀に開発されたこの円筒形(シリンドリカル)ヒゲゼンマイ(提灯型ヒゲゼンマイともいう)は、ウォームギヤやコルク栓抜きのように、垂直に立ち上がる構成を持っている。当時のマリンクロノメーターに広く使用されていたこのヒゲゼンマイは、一般的な平ヒゲゼンマイと異なり、同心円状に拡大収縮する特長を備えている。この点は、先端から天真のホゾに負担がかかる平ヒゲゼンマイに比べて大きな利点であり、後に開発された、ヒゲゼンマイの外側を補正するブレゲヒゲ(とりわけフィリップス曲線を持つもの)でさえも、円筒形ヒゲゼンマイには及ばない。加えて円筒形ヒゲゼンマイは両先端をブレゲヒゲのように巻き上げてあるため、天真ホゾの摩擦を軽減して、等時性を大幅に改善できる。しかし、独特な形状のため製造が非常に難しいため採用はごく一部のモデルに限られる。事実、プレシジョン・エンジニアリングでは、通常の10倍の時間を要して円筒形ヒゲゼンマイを製造している。また、仮に製造できたとしても、高さがあるため普通の時計には搭載できない。ドーム状の風防と立体的なムーブメントを持つフライングTは、円筒形ヒゲゼンマイの採用にはうってつけだったのである。
マキシミリアン・ブッサーとエドゥアルド・メイランの友情
今回のコラボレーションについて、MB&Fの創業者であるマキシミリアン・ブッサーは以下のように述べている。「私はH.モーザーのエドゥアルド・メイランに電話をして、コラボレーションしたい作品があることを伝え、自分がいかにダブル・ヘアスプリング、フュメダイアル、そしてコンセプトウォッチのシリーズ作品を素晴らしいと思っているのか言葉を尽くした。するとエドゥアルドは間髪を入れずに、それらのノウハウを使ってもよいと言ってくれたんだ。ただしその条件として、彼にも私のマシンをひとつ再解釈させてほしいと言ってきた。これを聞いて最初は驚いたが、よく考えてみた。私は50%がインド人で50%がスイス人。DNAを混ぜ合わせることで面白い結果が生まれることには強い確信があった。だから時計作りでも同じことをしてみたらどうか、とね。こうして私は彼に同意し、自分が特に愛着を抱いているフライングTを提案したんだ」。
レガシーマシン 101 MB&F × H.モーザー
こちらはレガシーマシン101に、モーザー風のデザインを与えたモデル。ヒゲゼンマイは円筒型ではなく、平ヒゲゼンマイだが、それを2枚重ねて、円筒形ヒゲゼンマイと同じ効果をもたらす、ダブル・ヘアスプリングを採用する。その結果、ケースの高さは抑えられた。採用された4種類のフュメダイアルは、レッド フュメ、コズミックグリーン フュメ、ヤスマリーナブルー フュメ(アフメド・セディキ・アンド・サンズ限定)、そして有名なファンキーブルーフュメだ。手巻き。23石。1万8000振動/時。SS(直径40mm、厚さ16mm)。パワーリザーブ約45時間。30m防水。各色世界限定15本。価格未定(日本未入荷)
レガシー・マシン 101は大ぶりのテン輪を文字盤上に懸架し、パワーリザーブ、そして時分針という機械式時計のエッセンスをミニマルに昇華させたモデルである。宙に浮いた直径14mm魅惑的なテン輪は中央に配置されているが、フュメダイアルの美しさを引き立てるため、二つのサブダイアルは省かれた。マキシミリアン・ブッサーが時計製造の神髄と考えているテンワには、プレシジョン・エンジニアリング社が製造したダブル・ヘアスプリングが搭載されている。なお、フランソワ・モヨンとカリ・ヴティライネンが設計した古典的なムーブメントは従来のままである。
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