オリスの歴史は、1904年の6月1日、スイス時計業界の心臓ともいえるル・ロックルから、ポール・カッティンとジョージ・クリスチャンという二人の時計師がヘルシュタイン村に来た時に始まった。彼らは、バーゼルから25キロ北のドイツ語圏にあるヴァルデンブルク渓谷の、不況に直面する小さな工業地域にチャンスを見出したのだった。創業から116年、長きにわたって拠点としているヘルシュタイン村に敬意を表して、オリスは村の名前を冠する限定版「ヘルシュタイン エディション 2020」を発表した。
外装すべて(一部部品を除く)をブロンズで製造した限定モデル。自動巻き(Cal.オリス771、セリタSW510ベース)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。ブロンズケース(直径43mm)。100m防水。世界限定250本。オリスブティック及び公式サイト限定販売。現在オリスはいくつかのモデルをオンラインで購入できるようにしており、本作はそのひとつ。公式サイトから購入する場合、限定ナンバーを選べる。51万円(税別)。6月下旬発売予定。
スイス時計業界初の、ケースもブレスレットも無垢の鋳造ブロンズ製
スイス時計業界では初めて、ケースとブレスレットに無垢の鋳造ブロンズ(青銅)を採用した「ヘルシュタインエディション 2020」。ケース、ベゼル、ベゼルインサート、リューズ、プッシャーすべてがブロンズで鋳造されている。時計業界ではあまり使われない鋳造だが、金型が良ければ、非常に複雑な造形を与えることが可能だ。それは凹凸を強調した回転ベゼルが示す通り。とりわけブロンズ素材の採用に積極的なオリス。しかし、ブレスレットまでブロンズにするとは予想外だった。なお耐久性を考えてケースバックはSS製。ブロンズのケースはねじ込む部分がすぐ痛んでしまうことを考えると、これは賢明な選択だ。分厚いケースバックには、オーナーとその周囲を笑顔にする”オリスベア”の刻印が施されている。
オリスのゆりかご、ヘルシュタイン村
1904年に創業されたオリスは、10年にはその地域で雇用者数最大の企業になり、以降も安定した成長を続けた。最盛期を迎えたのは60年代のこと。この時代には従業員数ほぼ1000人を擁する、世界で10指の規模の時計会社に成長したのである。70年代の世界経済危機とクォーツ時計の登場で、スイスにある時計メーカーの大多数は閉業を余儀なくされたが、現会長のウーリック・W・エルゾックのもと、オリスは機械式時計の製造にフォーカス。80年代以降は再び成長軌道に乗った。
あまり知られていないが、ETAに機械式ムーブメントの量産を促し、セリタの独立を手助けしたのはオリスである。仮にこの会社が機械式時計に注力しなかったら、スイスの機械式時計のあり方は違っていたかもしれない。創業以来経営母体は何度か変わったが、オリスは変わらずヘルシュタイン村に本社を置き、職人の手仕事と機械工業の良さを合わせた、良質で実用的な時計を作り続けている。同社が、村の名前を冠した特別な限定モデルをリリースした理由だ。
ブロンズは必ず酸化するけれど......
ブロンズは酸化しやすいため、長期間使っているとブレスレットやケースに吹いた緑青(ろくしょう)が腕に付く場合がある。しかし、時計ファンならばブロンズが腕に色移りすることも、それが洗えば落ちることもご存知のはずだ。本作はそういう手間も楽しめる、愛好家向けの時計なのである。もっとも、趣味性を強調したとはいえ、オリスはあくまでも実用時計メーカーだ。ブロンズは柔らかい天然素材で、ピンやリンクを止める十分な強度を持たない。そのためこういった部品はケースバック同様、硬くて耐酸性の高いステンレススチールでできている。
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