パテック フィリップはウォッチズ&ワンダーズ 2022で新作「1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ」5470P-001を発表した。本作は、ふたつの独立したクロノグラフ機構と、2本のセンター秒針を持っており、その名の通り1/10秒単位での時間計測が可能だ。新たに開発された手巻きのクロノグラフムーブメント、キャリバーCH 29-535 PS 1/10を搭載しており、7件もの特許技術を取得している。
2本の同軸秒針で1/10秒を計測する、まったく新しい高精度クロノグラフ
パテック フィリップは、ウォッチズ&ワンダーズで数々の魅力的な新作を発表した。その中で大トリとも言えるのが“少し遅れて”発表された「1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ」5470P-001」である。
手巻き(Cal.CH 29-535 PS 1/10)。38石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約48時間(クロノグラフ非作動時)。Ptケース(直径41mm、厚さ13.68mm)。3気圧防水。価格要問い合わせ。
最大の特徴はやはり、1/10秒単位で時間計測ができるまったく新しい表示とメカニズムを取り入れている点だろう。ふたつの独立したクロノグラフ機構と2本のセンター秒針を備えているのだ。
秒針の同心円状の表示は特許を取得したものであり、パテック フィリップの技術陣が視認性の高さを追求して生み出したものである。センターに2本のクロノグラフ針を備えており、それぞれが専用の機構で駆動され、別々の速度で動作する。
文字盤を1分で1周する第1の秒針は、内周のパール・マーカー上に通常の秒表示を行う。また赤色の第2の秒針は12秒で1周(通常のクロノグラフ秒針の5倍の速度)し、12のセクター(それぞれのセクターがさらに10のセクションに分割されている)からなる、文字盤外周のシュマン・ド・フェール(レールウェイ)型スケール上に1/10秒単位で表示されている。
これにより本作の所有者は、内周のパール・マーカー上に示される秒単位の経過時間、および外周のシュマン・ド・フェール型のスケール上に示される1/10秒単位の経過時間(=最後のレッド・マーカーからの経過時間)を即座に読み取ることができるのだ。一方で経過した分は、3時位置サブダイヤルに瞬時運針式30分計で表示される仕組みになっている。
またこのクロノグラフは、2時位置に設けられたひとつのプッシュボタンがスタート、ストップ、ゼロ復帰の動作を順次指示するようになっている。この「シングルプッシュボタン」は、懐中時計の時代から愛好家に支持され続けるクラシックなクロノグラフを想起させるだろう。
特許技術を凝縮した、新設計のムーブメント
本作が採用する新しいメカニズムは、スプリット秒針クロノグラフと同等の複雑であるという。10振動で動作する脱進機を持ち、高速に回転する秒針を備えた第2のクロノグラフ機構を統合した新しいムーブメント、キャリバーCH 29-535 PS 1/10は、かなり多くのエネルギーを必要とする。このエネルギーを制御し、抑制するために、パテック フィリップの技術陣はムーブメントの隅々にまで介入する必要があったのだ。そして、ムーブメントの開発全体で最も重要視されていたのは“精度”という合い言葉だったという。
このムーブメントの開発は、ムーブメント全体にエネルギーを供給する、単一の主ゼンマイから始まった。ヒゲゼンマイの振り角の変動を可能な限り抑え、計時精度の安定性を最高度に保証するため、パテック フィリップは主ゼンマイを見直し、その効率を高めた。利用可能なエネルギーを増やし、パワーリザーブを増加させるために香箱真の直径を減らし、主ぜんまいの巻き数を増やした。そして、香箱真に設けられた特許取得の切り欠きにより、巻き上げ時にフックへの応力を減らし、過剰な力による損傷のリスクの排除を行った。
そして、信頼性や計時精度といった目標を達成するために「パテック フィリップ・ アドバンストリサーチ」部門により開発された「Oscillomax®︎」調速機構を採用している。この機構は2011年に発表され、17件の技術特許を取得し、Silinvar®テクノロジーのすべての利点を活用した3つの革新的なコンポーネントから構成されている。
このSilinvar®テクノロジーは、卓越した物理特性と機械特性(軽量、頑丈、耐磁性など)を持つシリコンの派生物をベースとしている。Oscillomax®調速機構は、特許取得のターミナ ル・カーブとインナー・ボスを備えた、Spiromax®ヒゲゼンマイ、広範囲にジオメトリを見直したアンクルとガンギ車からなるPulsomax®脱進機、さらにゴールドのインサートを備えたSilinvar®︎製のGyromax®テンプから構成されている。
パテック フィリップが現行コレクションにおいて、このOscillomax®調速機構を採用するのは、永久カレンダー《パテック フィリップ・アドバンストリサーチ》5550Pモデル(2011年)の発表以来となる。この決定は、本作が搭載する新しいムーブメントの優れたパフォーマンスにとって決定的な役割を果たした。またこのムーブメントは、明らかに高いエネルギー消費にもかかわらず、パテック フィリップ・シールで規定された日差マイナス3〜プラス2秒以内という高い精度を可能にしたのである。
“ユーザーファースト”のクロノグラフ機構
本作における大きな“挑戦”は、1/10 秒の表示品質に関するものだった。ふたつのクロノグラフの表示は完璧に同期されている必要があり、当然ながら1/10秒クロノグラフ秒針はジャンプや振動のない滑らかな動きを行わなければならない。ここでもパテック フィリップの技術陣は、革新的な解決法を開発し、本作に取り入れたのだ。
1/10秒表示機構は、ベースムーブメントの4番車から駆動車を介してエネルギーを得ている。この駆動車を新たに2層構造とし、上側の歯車には柔軟なアーム、下側の歯車には硬質のアームを採用。この特許取得のコンパクトかつ低エネルギー消費のアンチ・バックラッシュ構造により、駆動車の歯がクラッチ車に弾性力を及ぼし、指針の振動のリスクを排除している。
プッシュボタンを押し、クロノグラフがスタートすると同時に、毎分1回転で動く駆動車が、それの5倍の12秒で1回転する1/10秒カナ歯車と噛み合う。この“加速”を可能にするために1/10秒カナ歯車に「マイクロ歯加工」を施した。すなわち、直径1.469mm、歯厚30μmのカナ歯車の歯数は136本である。クラッチ車がカナ歯車に及ぼす予荷重により、歯のバックラッシュを抑制している。これらすべての対策により、表示の精度を最大限に高めているのである。
加えて特筆すべきは、実用における耐衝撃性能だ。新しいキャリバーCH 29-535 PS 1/10は、日常の使用においてさらされるあらゆる制約とリスクに対応しなければならなかった。 そのためパテック フィリップは、特許取得のふたつの機構を開発した。
ひとつは、短時間計測の全プロセスでクラッチレバーを保持するショック・アブソーバー・フックである。そしてもうひとつは、1/10秒クロノグラフ構成部品の片重り(=重心が回転の中心からずれる現象)を利用する。衝撃が発生した場合、衝撃にさらされたすべての構成部品の加速度は累積されるのではなく補正される。その結果、すべての構成部品が所要の位置に保持され、時計機能への影響を排除することができるのだ。
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