パテック フィリップは、非常に高い人気を誇る「ノーチラス」の新作を発表した。2021年に生産中止となったRef.5711/1Aに替わる新作Ref.5811/1Gは、22年の後半を飾る大作のひとつである。素材が18KWGに変更されたほか、美点である装着感も一層進化した。
3本の新生「ノーチラス」に見る細部の進化
Ref.5811/1G
さまざまな新作が時計業界を騒がせた2022年。しかし、意外な大作が秋に用意されていた。それがパテック フィリップのまったく新しい「ノーチラス」である。パテック フィリップがアナウンスした通り、ステンレススティール製のノーチラスであるRef.5711/1Aは21年に生産中止となった。
それに対してパテック フィリップは2022年の10月18日に18Kホワイトゴールド製の外装を持つRef.5811/1Gをリリースした。基本的な造形は06年初出の5711/1Aに同じだが、10時位置から4時位置の直径が40mmから41mmに大きくなり、また厚みも0.1mm薄い8.2mmとなった。大きな変化はケース構造だ。5711/1Aで標準的な3ピースケースとなったノーチラスは、オリジナルのRef.3700/1Aに同じ2ピースに回帰したのである。
自動巻き(Cal.26-330 S C)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(10時位置から4時位置の直径41mm、厚さ8.2mm)。12気圧防水。938万3000円。
パテックフィリップはこの理由を「オリジナルに近づけたかったため」と説明する。あくまで筆者の推測だが、ケースを薄くできた最大の理由は、このツーピース化だろう。裏蓋とミドルケースを一体成形することで、裏蓋の厚みを大きく減らせたわけだ。なお、2ピースケース化に伴い、ムーブメントはRef.3700/1Aに同じく、文字盤側から取り外すようになった。ただし、取り付け方法の変更は見た目に影響を与えていない。
短時間だが触った印象を言うと、元々薄いケースがさらに薄くなった結果、ノーチラスの美点である時計とブレスレットの重量バランスはいっそう改善された印象を受ける。ノーチラスならではのうねうねしたブレスレットの感触も従来に同じである。ノーチラスの熱心な愛好家ならば、この微妙な味付けを歓迎するに違いない。
外装におけるもうひとつの、あるいはもっとも大きな改善点が新しい折りたたみバックル付きである。これはロック可能な新しい調整システムを備えたもので、2mmないしは4mm長さを調整することができる。これは薄さと微調整を両立したバックルであり、デスクワークの際も邪魔になりにくい。
搭載するムーブメントはキャリバー324 S Cを全面的に改良したキャリバー26-330 S Cである。キャリバー324の整備性を高めたこのムーブメントは、相変わらず巻き上げ効率が良く、耐磁性と等時性も優秀である。また、今のパテック フィリップらしく、秒針停止機能も備わっている。
このムーブメントの知られざる美点が音の小ささだ。ローター芯にセラミック製のボールベアリングを採用したにも関わらず、巻き上げのノイズは極めて小さく、現行品でもっとも音の静かな自動巻き、といってよい。パワーリザーブは約45時間と長くないが、トータルで見ると現行品屈指の自動巻きだ。
あくまで筆者の印象だが、新しいRef.5811/1GとはRef.5711/1Aの後継機というよりも、オリジナルのRef.3700/1Aを思わせる時計である。価格は極めて高価だし、ステンレススティールモデルに比べて重いが、薄くて着けやすい(なにしろ5811/1Gは5712/1Aよりも薄いのだ)というノーチラスの美点はより強調された。
また、文字盤のブラック・グラデーション処理も前作と比べてやや落ち着いた印象だ。パテック フィリップならではのロジウム処理を施していない18Kホワイトゴールドとの組み合わせは極めて魅力的である。もっとも、既存モデル以上に入手は難しいだろう。
Ref.5712/1R-001
新しく追加されたもうひとつのノーチラスが、ムーンフェイズとカレンダーを持つRef.5712の18Kローズゴールド版だ。かつて少量生産されたらしいが、こちらはレギュラーモデルである。
自動巻き(Cal.240 PS IRM C LU)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(10時位置から4時位置の直径40mm、厚さ8.52mm)。12気圧防水。1113万2000円。
ケース素材以外は、搭載されるキャリバー240 PS IRM C LUや文字盤の仕上げも同じ。しかしながら、ケースとブレスレットを貴金属に、文字盤をブラウン・ソレイユに改めることで、ラグジュアリー感が強調された。
加えて言うと、時計全体が薄いため、装着感は相変わらず優れている。ノーチラスの美点であるヘッドとテールの重量バランスも適切だ。個人的な好みを言うと、そろそろノーチラスもピン留めではなく、ネジ留めのブレスレットを採用すべきと考えている。
しかし、そういう変更を加えた場合、ノーチラスならではのうねうねしたブレスレットの感触は損なわれるはずで、あえて大きな変更を加えなかったのは当然だろう。ちなみにこちらのモデルもRef.5811/1Gに同じく、バックルは微調整付きだ。調整幅は2mmないし4mm。これもRef.5811/1Gに同じく装着感をいっそう改善するはずだ。
なお筆者はステンレススティールケースのモデルよりも、18Kゴールド製の本作を好む。理由は、重くなった分、時計全体の優れたバランスが強調されたためだ。薄いにもかかわらず適度な重みを持つ本作は、ありきたりのブレスウォッチに飽きた人たちにも好まれるのではないか。なお、写真のモデル以外にも、アリゲーターストラップ付きのRef.5712R-001と、ホワイトゴールドのRef.5712G-001も用意されている。
Ref.5990/1A-011
今年は、14年に発表されたフライバック・クロノグラフ搭載のRef.5990も進化した。こちらは既存のステンレススティールモデル(Ref.5990/1)を置き換えるモデル。基本的な構成は従来に同じだが、他のノーチラスに同じく、バックルには2mmないし、4mmのエクステンション機能が備わった。
自動巻き(Cal.28-520 C FUS)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(10時位置から4時位置の直径40.5mm、厚さ12.53mm)。12気圧防水。921万8000円。
今回発表のノーチラスに共通する微調整機能付きのブレスレットは、とりわけRef.5990/1Aにとって意味のある物だ。そもそもヘッド(時計部分)の重いRef.5990は、ノーチラスの他モデルのような優れた装着感(といっても類似のモデルに比べると良好だったが)を得にくかった。新しいRef.5990/1Aに備わった新しいブレスレットは、その着け心地を改善するだろう。
搭載するムーブメントは申し分のないものだ。傑作のキャリバーCH 28-520にトラベルタイムを加えた今作のキャリバーCH 28-520 C FUSはクロノグラフを動かした状態でも精度に優れているうえ(パテック フィリップがクロノグラフ針は秒針としても使えます、と公言する理由だ)、海外渡航者には便利なローカルタイムとホームタイムの表示を備えている。
現在、パテック フィリップは実用性に優れたコンプリケーションを作っているが、筆者が触った限りで言うと、ワールドタイム、年次カレンダー、そしてこのトラベルタイムは群を抜いて完成度が高い。それを12気圧防水のケースに収め、しかも装着感を改善した本作は大変魅力的だ。やはり入手は困難だろうが、とりわけ海外渡航者にはうってつけのモデルといえる。
今回の発表で追加された5つのクロノグラフモデルについては、また後日ニュースとして掲載することとしたい。
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