新型ムーブメントでは、テンプが旧型ムーブメントとは反対のリュウズ側に配置されている。テンプ受けも旧型とは反転した形になっており、ツインバレルと受け石の位置、そして、それに伴い輪列のレイアウトも変更された。つまり、完全に新しいキャリバーが誕生したと言っても過言ではないのである。にもかかわらず、部品点数については旧型365点、新型は368点と、ほぼ変わらないのは興味深い。石の数は43個となり、以前よりも10個少なくなった。だが、ビス留め式ゴールドシャトンは8個で、ひとつしか減っていない。ガンギ車の受けを押さえるブラックポリッシュ仕上げのプレートやエンドストーンは、旧型より変わらず受け継がれている。
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(上)1994年にトレンドを生み出したアウトサイズデイト。 (下)新型ムーブメントでは、調整用偏心錘で微調整を行うフリースプラング方式を採用。 |
新生ランゲ1の外装はほとんど変わっていないが、ベゼルが若干スリムになったことでややモダンな印象に仕上がっている。デザインについてはこれ以上、変更する必要がなかったと言った方が正しいだろう。ランゲ1は時計デザインのアイコン的存在であるばかりか、特別に美しい時計でもあるからだ。以前と同じ38.5㎜の直径は、ドレスウォッチとして好ましい大きさである。ランゲ1を小さすぎると感じる時計愛好家のためには、41㎜のグランド・ランゲ1が用意されている。
加工品質の高さも、A.ランゲ&ゾーネの誇る強みのひとつである。これは、ポリッシュ仕上げのケースやサテン仕上げのミドルケース、また、エッジを丁寧に面取りしてポリッシュで仕上げたプッシャーに見て取ることができる。さらに、ラグは内側まで丁寧なポリッシュ仕上げが輝きを放ち、ツク棒の下にバーを備えた尾錠も、手が届かないように見える部分にまで見事にポリッシュがかけられている。良好な品質は、膨らみを持たせたポリッシュ仕上げのゴールド製針とゴールドの無垢を使った菱形アプライドインデックス、印字が繊細な文字盤、そして、ハンドエングレービングを施したムーブメントにも表れている。
文字盤の各表示が重なり合うことのないオフセンターのレイアウトは、審美的なメリットだけではなく、実用性も兼ねている。アウトサイズデイトは、単にサイズが大きいことで読み取りやすいわけではない。これは、針が日付窓の上に重なってカレンダーの数字が遮られ、判読が困難、あるいは判読がほぼ不可能になってからやっと気付くありがたさである。パワーリザーブ表示も他の表示に覆われることがなく、いつでも確認することが可能だ。約72時間という長いパワーリザーブを備えた手巻き時計の場合、これは極めて重要な点である。だが、文字盤全体を利用しないレイアウトでは、必然的に通常の3針時計よりも時刻表示に与えられるスペースが小さくなる。こうした時計における時刻の視認性はいかばかりか。ランゲ1では視認性が驚くほど秀逸で、あらゆる光の条件下で明瞭なコントラストが確保されている。ただし、蓄光塗料が塗布されていないため、暗所では何も見ることができない。
我々は期待に胸を膨らませ、歩度測定機を使用した精度テストの結果を待った。自社製ヒゲゼンマイや調整用偏心錘を備えたフリースプラング方式の緩急調整といった改良点によって、ランゲ1は果たして高い精度を叩き出すことができるのか。着用時にはプラス1秒/日という見事なプラス傾向を示したランゲ1だが、ウィッチ製電子歩度測定機クロノスコープX1でのテストでも、計算上の平均日差がプラス1秒/日と、この上ない結果を見せてくれた。ただ、それぞれの姿勢差を見てみると、マイナス4秒/日からプラス4秒/日までかなりの開きがあり、「文字盤上」から「文字盤下」に変わった時の振り落ちが46度というのも、どちらかと言うと大き過ぎる印象だった。とはいえ、全体的に見ればまずまずの精度と言えよう。すべての手巻き時計と同様、我々はランゲ1でもフルに巻き上げてから12時間後の精度を検証した。なぜなら、ランゲ1は毎朝巻き上げることが推奨されており、12時間後というのは次に巻き上げる時刻までちょうど半分の地点になるからだ。
ランゲ1は装着感も快適で、毎朝、喜びを感じながら手首に巻くことができる。大きさと重さが手首に負担をかけることはなく、ストラップは少し時間が経てば十分しなやかになってくる。尾錠も、鋭く尖った角などまったくなく、どのフォールディングバックルよりも快適に着用することができる。
では、ランゲ1に弱点はないのだろうか。確かに、344万円という価格は、購入を検討する際、かなりのハードルになるだろう。だが、高い加工品質、アウトサイズデイトのような複雑機構、そして、長いパワーリザーブを備え、丁寧に装飾が施されたムーブメントによって、ランゲ1は説得力のあるコストパフォーマンスを提供している。ランゲ1と同等のスペックを備えた時計が高い価格帯に属するのはパテック フィリップも同じである。ただし、ランゲ1に比肩しうる時計は、現在の市場には存在しない。あったとしても、それは個性に欠けるか、機能の面でランゲ1とはかけ離れたものであるかのどちらかである。
新生ランゲ1は、アイコンとしての地位を堅持し続けるだろう。新型では旧型よりも多くのことが可能になった。瞬時日送り、フリースプラング方式の緩急調整など、ムーブメントは以前よりもずっと調和の取れた仕上がりになっている。ランゲ1はドイツで最も優れた時計、そして、ドイツ発の数少ないアイコニックピースのひとつなのである。