照明弾
EZM10・TESTAFは、サンドブラスト仕上げのシンプルなチタン製ケース、蓄光塗料をふんだんに使用した黒文字盤など、現代の流行に合った意匠を備えており、その様式美は明確かつ機能的である。だが、縦長のクロノグラフボタンがケース外側のフォルムに沿った形に成形され、フラットなベゼルがケース内側のラインに合わせたサイズであることから、この時計が、単にデザインの上で洗練されているだけではなく、TeStaFで規定された諸条件を満たしていることが分かる。ケースのフォルムや操作をつかさどる部品は、パイロットの装備品やコックピット内の計器に引っかかるのを防ぐため、突起や出っ張りがなるべくないように設計されている必要があるのだ。審美的要素よりも機能性を優先する考え方は、文字盤のデザインにも反映されており、3時位置の24時間表示で午前か午後かを確認でき、6時位置にあるオレンジ色のサブダイアルでは計測時間の情報を得ることができるなど、TeStaFで求められる諸条件を満たす構成となっている。計測された分と秒は、センターに配されたオレンジ色の2本の針で表示される。クロノグラフ分針には飛行機をかたどった矢印が付いており、時刻表示用のセンター分針と区別しやすい。
EZM10・TESTAFからは、航空計器の製造時に求められる配慮と精密さをもって、ジンがこのパイロットウォッチを作り上げたことがうかがえる。ケースは、ジンが独自に開発したテギメント技術で焼き入れされ、表面を硬化させることで、傷に極めて強い仕上がりとなっている。特殊結合方式によりケースに固定され、両方向に回転する噛み合いの重厚なカウントダウン式パイロットベゼルで設定を行うのは、特に楽しい作業である。ねじ込み式リュウズも扱いやすく、一番外側まで引き出したポジションでも巻き真は安定し、操作上、不安材料はまったくない。
TeStaFの審査において特に重視されるのは視認性である。日中でも暗所でも、また、視界がいかなる条件であっても、コックピット内では常に良好な視認性が確保されていなければならないからだ。こうした理由から、TeStaFの認定を受けるためには文字盤に赤を使ってはならないことになっている。赤は、照明下でも自然光下でも目視できる色ではないからである。そのため、ジンのクロノグラフが備えるコントラストに富んだ文字盤には、数多くの白い夜光マーカーとオレンジ色の表示要素が使用されている。また、EZM10・TESTAFでは、パイロットが望みさえすれば、計測時間を4分の1秒まで正確に読み取ることができる。特に、カウントダウン式パイロットベゼルで分の目盛りが全周にわたって途切れることなく配されているのは、ユーザーにとってうれしい配慮である。パイロットベゼルのマーカーやインデックスにはもちろん、蓄光塗料が塗布されている。EZM10 TESTAFは、インデックスが大きくデザインされていることから、暗所でも十分に強く発光する。だが、緊急事態に備えた予備計器としてこのクロノグラフに頼る必要のないユーザーにとっては、素早く時刻を読み取りたい場合に数多くの表示要素がやや障害になるかもしれない。
この時計が実際にミッションタイマーとして使用される場合は、パイロットがグローブをしたままでも各種の操作を行える必要がある。そのため、ジンはEZM10・TESTAFに扱いやすいベゼルと刻み目の深い大きなリュウズを装備した。日常使いで唯一、気になる小さな欠点は、日付早送り調整機能が装備されていない点である。
ベゼルやリュウズよりも、その扱いにおいてやや繊細な指先の感覚が求められるのは、精巧に作られたインテグレーションカウレザーストラップである。ストラップは、簡素な作りのチタン製尾錠と、同じく簡素な仕上がりのツク棒によって手首に固定される。インテグレーションカウレザーストラップは、約20・4㎏の力で引っ張っても切れずに持ちこたえるという、ストラップに求められるTeStaFの規準を満たしている。それに対して、バックルの加工品質がほかの構成部品よりもやや劣るのは残念である。