もちろん、技術面でもいくつかの見どころがある。A.ランゲ&ゾーネは、機械式時計の精度を左右するヒゲゼンマイまでも自社製造する数少ないマニュファクチュールのひとつだ。自社オリジナルのヒゲゼンマイは、同社の全モデルにまでは装備されていないのだが、グランド・ランゲ1にはこの自社開発・自社生産の高品質なヒゲゼンマイが使用されているのだ。それに加え、10の位を表示するために十字プレートを組み合わせたアウトサイズデイト機構のコンパクトな設計も見逃せない。そして、パワーリザーブ表示にはあえてドイツ語で〝AUF〟(アップ)、〝AB〟(ダウン)とプリントして、さりげなくドイツ時計としての主張をしている点にも注目したいところだ。
さて、歩度測定機ではどう出るだろうか。結論から言うと、かなり良好だ。平均日差はマイナス0・3秒。旧型のグランド・ランゲ1とほぼ変わらない数値である。姿勢差も4秒に収まっている。しかし、振り角に関してだけは、水平姿勢時と垂直姿勢時の差が47度というのは少々開き過ぎのように思われる。それでもトータルすると、日々の使用で針合わせするのは、かなり少なくて済むはずだ。
見目良し、精度良しではあるが、リュウズが小さめで、引く時に結構力が必要なのは改善してほしいところだ。もっとも、針合わせ自体はストップセコンド仕様なので、厳密に合わせることができる。約72時間は連続して作動するおかげで、金曜日の昼に時計を外して放置していたとしても、主ゼンマイがフルに巻き上げられていれば、月曜日の昼までは動いているのはありがたい。しかし、この腕時計を一度手にしたならば、さっさと外したいなどとは思わなくなるだろう。着けると違和感がほとんどないのだ。重さを感じさせず、ストラップや尾錠はなめらか。フォールディングバックル仕様の腕時計にありがちな、肌当たりのごつさがない。
ここまで来ると、すでに想像がつくと思われるが、購入するかどうかの決め手は唯一その価格だろう。ホワイトゴールドケースモデルは364万3500円。約72時間という長めのパワーリザーブとアウトサイズデイトが技術面において特徴的ではあるが、オフセンターされた時・分表示とパワーリザーブ表示のほかは時・分・秒表示の手巻き腕時計としては、値が張る部類だろう。しかし、その金額は手間を惜しまず技を尽くした美しい手仕上げ装飾のムーブメントや、卓越したクォリティの表れとも言える。だが、A.ランゲ&ゾーネに並ぶブランドであるパテック フィリップやオーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンのモデルと比較してしまうと、リーズナブルとは言い難い。加えて、ランゲ1のホワイトゴールドケースのモデルと比べても、56万7000円もの差がある。
しかし、グランド・ランゲ1で注視すべきは、何と言っても〝乱調の美〟でありながらも古典的な気品をたたえていることと、作業技術のクォリティの高さだ。ランゲ1の完成度に釣り合うまで、多少道のりは長かったが、待てば海路の日和あり。願うものが実現した成果をリアルタイムで体感できるのは、掛け替えのない出来事なのである。