理論が裏付ける実力
今回のテストウォッチも、プッシュボタンのなめらかな押し心地に関しては想像通りだ。しかし、これは筆者の個人的な感想なのだが、少々満足できないところもあった。プッシュボタンの押し心地自体はよいのだが、取り付けにゆとりがありすぎてカタカタしていたのだ。これはケース側面のプッシュボタンホールの位置取りがずれていたからではないだろうか。これだけ魅力的に作られたムーブメントを載せた安価とは言えない時計だけに、これはやはりいただけない。それともうひとつ。ラグの先端のシェイプは直線的過ぎると言わざるを得ない。この2点が玉にきずといったところだろうか。
しかし、それより目を引くのはパーフェクトな精度だ。歩度測定機にかけた結果、日差はゼロからごく狭い幅にとどまった。クロノグラフのオン、オフどちらの場合もである。この安定性は極めて模範的だ。それは6姿勢すべてにおいて、振り角が同じ調子であることからも大いに納得させられる。着用テストでも同様の結果であった。これこそが、ロンジン新キャリバーのクォリティなのだ。
ブリッジや地板、着色処理の青いコラムホイールなどのムーブメントの美しい仕上げも、この価格帯では上々で好印象が持てる。日付のクイックコレクト用プッシュピースが、10時位置のケース側面にあるのも悪くない。もっとも、プッシュポイントはもっと気を使って、こんなに小さくしないでもらいたかった。専用の修正スティックが付属品としてあるにはあるが、こういうものを、外で使いたい時にちゃんと携帯していたためしがあるだろうか?
視認性については、ライトトーンの文字盤とロジウムメッキの針なので、普通の明るさで読み取る時は見やすい。だが、明るすぎる時や暗すぎる時は、事情が異なる。明るすぎると光が反射してコントラストがはっきりしない。そして、強力と誉れ高い夜光塗料スーパールミノーバが、文字盤と時針・分針に使われてはいるが、蓄光式の夜光塗料は最初に光を受けてこそ、暗い環境下で浮かび上がる性質のため、この小さな使用面積ではいきなり暗いところで見るには少々厳しいだろう。
針の長さに関しては苦言を呈したい。分針とクロノグラフ秒針があと1mm長ければ、文字盤外周のドットインデックスにきちんと届くものを。こうした点は、普通に考えたら取るに足らないウィークポイントだと言われたらそれまでだが、クロノグラフを購入しようとする多くの愛好家にとっては気になるところだろう。
この観点からすると、捨て置けない点はほかにもある。このモデルのムーブメントは8振動/秒なのだが、ドットインデックスの間に8分の1秒刻みの目盛りが入っていないのだ。クロノグラフにおける目盛りの有無は、朝食のゆで卵の固さやスパゲティのゆで具合、紅茶の抽出時間の長さ同様、永遠のテーマでもあるのだが、クロノグラフにトラッドかつ洗練された風格を添える要素のひとつなのだ。しかし、目盛りがないだけに、明らかにトラッド感よりスポーティーさが表現されていると言えよう。