Cal.899の微調整はテンワに取り付けられた4本のバランスウエイトで行う。ローターは片方向巻き上げ式である。
より深く、より速く、さらに遠くへ
マスター・コンプレッサーを使用したU.S.ネイビー・シールズの隊員たちは、ジャガー・ルクルトとの提携が始まるとすぐに、設計について感想を伝えてきた。例えば、回転ベゼルとケースが光を強く反射するため、時計の表面をよりマットに仕上げてほしい、といった意見である。さらに、U.S.ネイビー・シールズが過酷な訓練と任務を続ける中で、ベゼルがケースから外れてしまうこともあり、ベゼルの構造をもう一度、見直す必要があった。ムーブメントについても、ジャガー・ルクルトがル・サンティエの本社工房で再度、分析し、弱点を取り除いた。現在、店頭に並ぶ1500本限定のマスター・コンプレッサー・ダイビング・オートマティーク・ネイビー・シールズは、これらの結果を受けて、過酷な環境に耐える正真正銘のスポーツウォッチに仕上がっている。300mの防水性を備えているので水中でも問題なく着用可能で、まさに“苦楽をともにする”ことができるのだ。
日常的にも特殊な環境でも使用できるダイバーズウォッチで、耐久性と絶対的な信頼性に並び、最も重視される観点は、視認性である。この点、ジャガー・ルクルトの業績は称賛に値する。文字盤と針の組み合わせに、これ以上の調和を求めるのは不可能だっただろう。無反射コーティングがサファイアクリスタル製風防の両面に施されていないにもかかわらず、マットブラックと白のコントラスト、明確なタイポグラフィー、そして、針のフォルムの恩恵により、いかなる条件下でも時刻を確実に読み取ることができる。ネイビー・シールズの文字盤は、インデックスと針に塗布された蓄光塗料によって、暗所において長時間発光するのが便利である。この時計を見ると、蓄光塗料のスーパールミノヴァも常に進化を続けてきたことがよく分かる。スーパールミノヴァは、セラミックス製ベゼルにある小さなトライアングルマーカーにも塗布されている。1分刻みでクリーンに噛み合う回転ベゼルは、噛み合う音にも重厚感があり、数多くの回転ベゼル付きの時計で見受けられるような安っぽい音はしない。
ステンレススティールケースの表面には、全体的にヘアライン仕上げが施されている。この繊細な線彫り模様は美しいばかりではなく、時計にテクニカルな外観を与え、さらに、光の反射を抑える効果も併せ持つ。ラグの下端がとがり過ぎている感があるのが、ケースで唯一の難点である。また、ラグに取り付けられたレザーストラップとケースとの遊びも、もう少し正確に仕上げてほしかった。手首に着けると、ケースの形状に合わせて加工されたレザーストラップの端部とケースサイドとの間に不愉快な隙間が空くのだ。自動車ジャーナリストであれば、隙間寸法についてクレームをつけたくなるだろう。レザーストラップをもっとケースに密着させていたら、ストラップ全体がたわみにくくなっていたかもしれないが、数日も経てば柔らかくなっただろうし、隙間もよりクリーンに仕上がっていたに違いない。フォールディングバックルを廃したことは賢い選択である。ピンバックル(尾錠)のほうが安全で、ストラップの長さを調節しやすいからだ。テストウォッチのレザーストラップは品質が高く、撥水性を備えているが、これでも十分ではないというユーザーのために、ネイビー・シールズにはラバーストラップも用意されている。ストラップを替えると、時計の表情はがらりと変化する。