コラムホイール、信頼性の高いスイングピニオン、ダブルキャッチレバーによる
高効率巻き上げ機構を備え、機能的に説得力がある。
タグ・ホイヤー独自のクロノグラフムーブメント。創業者のエドワード・ホイヤーが1887年に特許を取得したスイングピニオンを採用し、さらに、コラムホイールを搭載したキャリバー1887。
日本の開発支援
セイコーインスツルがクロノグラフキャリバー6S74を1998年に完成させ、それ以来、主にクレドールに搭載しているのは周知の事実である。日本でしか手に入らないこの高級時計は、換算すると約4000ユーロと、決して安価ではない。
自社製クロノグラフムーブメントを欲しがっていたタグ・ホイヤーは、このキャリバーがタグ・ホイヤーの求める多くの要求をクリアしていることに気がついた。キャリバー6S系はETA7750よりも薄く、コラムホイールを搭載しており、何と言ってもスイングピニオンが採用されているのが特徴だった。クロノグラフのクラッチにスイングピニオンを使用する手法は、創業者であるエドワード・ホイヤーが発明し、1887年に特許を取得した技術だったため、タグ・ホイヤーというブランドにはまさにうってつけの機構だったのである。
タグ・ホイヤーとセイコーインスツルは、スイス側がキャリバー6S系の設計を利用することで合意した。この合意により、タグ・ホイヤーは少なく見積もっても2年の開発期間を節約することができた。しかし、このムーブメントは量産のために工業化し直す必要があった。タグ・ホイヤーは中長期的に、年間5万個のムーブメントを生産したいと考えていたからである。こうして完成したムーブメントには、エドワード・ホイヤーがスイングピニオンの特許を取得した1887年にちなんで“キャリバー1887"という名称が与えられた。
タグ・ホイヤーは、設計の大部分をオリジナルのまま転用し、スイングピニオンの微調整に使用する調整用偏心ネジなど、わずかなディテールを加えるにとどめている。テンワ、ヒゲゼンマイ、緩急調整装置、そして、耐震軸受けを含めた調速脱進機構全体は、スイスのメーカー、ニヴァロックス社とキフ社のものに変更された。また、地板や受け、ローターの形状も変更されたが、タグ・ホイヤーはこれらの部品を、ジュラ州ポラントリュイ近郊のコノールにある子会社のコーテック社で製造している。地板と受けなどの真鍮部品はフリュリー社製のフライス盤で乾式成形されているが、この工法は時計産業ではこれまであまり採用されたことのない、珍しいものである。乾式成形では冷却用のオイルが必要ないことから、工程ごとに部品を洗浄する必要がなく、その結果、各プロセスに掛かる時間を短くすることができる。コノールの工場ではさらに、39個の受け石を地板と受けに自動ではめ込むためのロボットも導入されている。最終組み立ては、ラ・ショー・ド・フォンにあるタグ・ホイヤーの新工場で行われている。この工場の組み立てラインは、手動と自動の工程が混在したセミオート式である。