キャリバー1887は、プッシュボタンの軽やかな押し心地を実現するコラムホイール、信頼性の高いスイングピニオン、ダブルキャッチレバーによる高効率巻き上げ機構を備え、機能的に説得力がある。
コラムホイールとスイングピニオン
キャリバー1887の構成部品を供給する合計22社のメーカーの中では、セイコーインスツルが唯一、非スイス系企業である。タグ・ホイヤーはセイコーインスツルから、数種類の打ち抜き部品を購入しているのだ。もちろん、セイコーインスツル製の部品が“SWISS MADE"の文字を裏付けるスイスの品質基準をクリアしていることは言うまでもない。
つまり、タグ・ホイヤーは、別のブランドが開発し、わずかな違いはあるものの、他社のモデルにすでに搭載されているムーブメントを自社で製造していることになる。これは、そのメーカーが日本のブランドであり、ドイツではどちらかといえば廉価時計の製造社として知られている現状と同様に、かなり珍しい状況ではないだろうか? だが、開発元が明確にされている限り、この技術移転について異議を申し立てる理由はどこにも見つからない。
この技術提携はむしろ、大きなメリットをもたらしている。ベースとなったセイコーインスツルのムーブメントは、信頼性が高いことと迅速に巻き上がることで定評がある。これは、名高い“マジックレバー"と呼ばれる爪で巻き上げる自動巻き機構の貢献によるものである。連結されたふたつの爪が伝え車に偏心させて取り付けられており、伝え車が回転すると片方の爪が巻き上げ車を引き、その間、もう一方の爪がこれを押すという仕組みである。従来の自動巻き機構に比べ、巻き上げ効率は約30%も向上している。
だが、このムーブメントの最大の強みは、タグ・ホイヤーではブルーにPVD加工されたコラムホイールだろう。トランスパレントバックから存分に鑑賞できるコラムホイールは、スタート/ストップボタンの非常に軽い押し心地に貢献している。また、リセットボタンの操作にも、あまり大きな力は必要ない。
タグ・ホイヤーにとってはスイングピニオンも重要であった。エドワード・ホイヤーが発明したスイングピニオンでは、上下にふたつの歯車を備えた軸(ピニオン)によってクロノグラフ秒針のスタート/ストップが制御される。下部の歯車が4番車と常に噛み合っていることから、ピニオンも常時、回転しているが、上部の歯車はクロノグラフのスタート時になってからレバーで押されて傾き、秒クロノグラフ車と噛み合うようになっている。このスイングピニオンによってクロノグラフクラッチは簡素化され、歯車同士が厳密に平行に配置されていなくても、極めて高い信頼性が約束される。伝統的な水平クラッチがよりエレガントな機構とみなされている一方で、最新式の垂直クラッチは技術上、最善の解決策とされ、クロノグラフ秒針のスタート時の針飛びを最低限に抑えることができる。だが、キャリバー1887のスイングピニオンも、上部に取り付けられた歯数の多い大きな歯車と改良された歯形によって、クロノグラフを迅速に始動できるのだ。
時刻合わせにはストップセコンド機能と日付早送り調整機能が役に立つ。ストップセコンド機能の恩恵により、秒針を正確に合わせることが可能で、日付も素早く、かつ、正しく設定できる。その上、リュウズはねじ込み式ではないので、引き出しやすく、簡単に回すことができる。ただ、日付の切り替わりがやや遅く、完全に切り替わるには午後11時少し前から午後12時少し前まで、約1時間掛かった。