ひとつである。これは、安定した精度によく現れている。
ブラック・ビューティー。チューリッヒでは、グラスヒュッテ・ストライプで飾られたキャリバーξにブラックゴールド仕上げが施されている。
タイムゾーン トラベルマシン
ノモスは、バウハウスを思わせる抑制されたデザインの時計をグラス ヒュッテで製作している。控え目な様式美は、昨年発表されたモデル「チューリッヒ」にも当てはまる。これまでよりも明らかに手の込んだデザインのケース は、チューリヒにあるハンネス・ヴェットシュタイン氏のスタジオで設計されたものである。今年、ノモスはワールドタイム表示機構を開発し、チューリッヒと 2005年に発表された「タンゴマット」に搭載した。当然のことながら、文字盤には新たな表示エレメントが出現する。「タンゴマットGMT」では、9時位 置の窓で現在のタイムゾーンを、3時位置の窓でホームタイムを表示するという、期待通りの解決策が提示されたのに対し、「チューリッヒ・ワールドタイム」 ではタイムゾーン表示の露出度が高く、遊び心あふれる手法でワールドタイムというテーマが扱われている。
24の都市名を記したディスクは全体がほぼ見える状態になっており、ホームタイム用のディスクも半分近く見えている。スモールセコンドは、中央の文字盤か ら6時側がワールドタイムディスク上にややはみ出した形で配され、“HEIMAT"(訳注:ホームの意味)の文字で示されたホームタイムのサークルも、似 たような形状でせり出している。これらの要素は、プリントされた青いスクエア型インデックス、タイムゾーンを示す12時位置の青い矢印、そして、ホームタ イムを示す3時位置の赤い矢印と相まって、見事なデザインを生み出している。しかも、チューリッヒ・ワールドタイムは、ノモス製であることをひと目で認識 させてくれる時計なのだ。とは言え、チューリッヒ・ワールドタイムのデザインについては、他のノモス・ウォッチよりも賛否が両極に分かれるだろう。
簡単なボタン操作で時間を旅する
タイムゾーンは、2時位置にあるボタンを軽く押すだけで、簡単に切り換えることができる。ベルリンの次はアテネが続くが、この時、都市名ディスクは反時計 回りに回転し、時針は1時間先へジャンプする。ホームタイムのアワー表示は変化せず、両タイム共通の分針も現在の位置から動かない。必然的に、タイムゾー ンの都市名もホームタイムのアワー表示もかなり細かくなっているが、シルバーカラーの針は文字盤からしっかりと浮かび上がる。チューリッヒとタンゴマット ですでに慣れているように、夜間は文字盤全体が暗いままである。
リュウズを引き出して分針と時針を合わせると、24時間方式のホームタイム用ディスクも同時に回転する。別のタイムゾーンに移動する場合は、文字盤の12 時位置に表示されるタイムゾーンを初めに設定する。この後、ローカルタイムを正しい時刻に合わせてから、8時位置にある埋め込み式修正ボタンを修正ピンで 押すと、ホームタイムを設定することができる。
このように、チューリッヒ・ワールドタイムは、他のワールドタイムウォッチのように全タイムゾーンの時刻を同時に表示するのではなく、選択したローカルタ イムしか表示しない。ひとつのローカルタイムしか表示しないことと、ホームタイムが24時間方式で表示されることから、この時計はどちらかと言えば、旅行 者よりも、別のタイムゾーンの人々に電話をかけることが多いユーザーに向いている。
この時計を身に着けると、旅行が楽しみになるばかりではない。全体的に良好な装着性はうれしい限りである。優れた装着感は、柔らかいストラップと滑らかな ケースバックによって確保されている。ただし、きゃしゃな手首の場合、時計をぴったりと装着するにはストラップに穴を追加しなければならないだろう。総重 量が73・5gと軽いことから、手首の上でぐらつく心配はない。
ストラップは、シェルコードバンと呼ばれる丈夫で油分をたっぷりと含んだ使役馬のレザーで出来ている。裏側にある“Handmade"の文字がほのめかす ように、ストラップは手縫いではないものの、仕上がりは丁寧である。明るい色の裏側にはコードバン特有の斑点があり、産地名の印刷なども見えることから、 ダダイズムのポスターから一部を切り取ってきたかのような印象を与える。尾錠は簡素で、削り出し加工のツク棒が付いているが、ブランド名が粗く刻印されて いるだけなのは残念だ。3400ユーロ(日本価格未定)の時計にこの尾錠ではやや不釣り合いな感がある。