シンメトリックな文字盤構成により、ほぼ完璧な調和を生み出している。
サクソニア・アニュアルカレンダーのディテールへのこだわり。ファセットカットされたインデックスとふくらみを持たせたランセット型ハンドは加工が完璧。
装着感を高める尾錠とストラップの品質
一般にはフォールディングバックルのほうが好まれる傾向があるが、尾錠も実用的である。ストラップの通りが良い尾錠とカーブを持たせたツク棒によって、ストラップは折れ曲がることがなく、尾錠はぴったりと手首に収まる。A.ランゲ&ゾーネの尾錠にはバーがもう1本、横に渡されているので、安定感も抜群だ。薄く、長さも短い尾錠には圧迫感がまったくなく、装着感はフォールディングバックルに勝る。また、ズボン用のベルトのバックルと比べてみても、尾錠の取り扱いがとりわけ面倒というわけでもない。
尾錠もケースと同じようにクリーンな作り込みで、きわめて入念なポリッシュ仕上げが施されている。ストラップにもコストや労力を惜しんでいない。斑の美しいクロコダイルレザーを使用したストラップは、数あるベルト仕立ての中でも最も贅沢なへり返し仕立てである。へり返し仕立てとは、表革の縁で中の芯材を包み込んで接着し、裏革を縫い合わせていく方法だ。A.ランゲ&ゾーネのストラップの場合は、馬具縫いと呼ばれる手法によって、仕上げの縫製が手作業で行われている。
ストラップは十分なしなやかさを備えているため、手首に着ければ装着感の良さになおのことうなずけるだろう。100グラムに満たない軽量構造と10mm未満のケースの厚さ、そして、滑らかなサファイアクリスタル製トランスパレントバックの恩恵により、サクソニア・アニュアルカレンダーは身に着けるのが非常に心地良い時計に仕上がっている。
ムーブメントの素晴らしい眺め
サファイアクリスタルのトランスパレントバックにも風防と同じことが言える。ガラスの存在を忘れさせるほど、無反射コーティングのクォリティは高い。そのおかげで、SAX-0-MATと呼ばれる自動巻きキャリバーL085・1を隅々まで堪能することができる。A.ランゲ&ゾーネの特徴でもある贅沢な装飾が随所に施されたキャリバーは、まさに鑑賞する価値がある。唯一、手巻きキャリバーに見られるビス留め式ゴールドシャトンは諦めなければならないが、同社のブランド名を手彫りで美しいレリーフに仕上げたゴールド製4分の3スケールローターが十分、その埋め合わせをしてくれる。このほか、洋銀製の4分の3プレートや受け、地板には、A.ランゲ&ゾーネ独特のストライプ、ペルラージュ模様、サンバースト仕上げなど、さまざまな模様彫りがなされている。ハンドエングレービングが施されたテンプ受けも、スワンネック型緩急調整装置や、ガンギ車を固定するブラックポリッシュ仕上げの受けと同様、マニュファクチュール、A.ランゲ&ゾーネのお家芸のひとつである。さらに、チラネジテンプ、頭部を鏡面で仕上げたブルースクリュー、そして、面取りしてポリッシュをかけたエッジなど、A.ランゲ&ゾーネの装飾は見飽きることがない。
このムーブメントには、構造の面でも説得力がある。外周部にプラチナ製の分銅を備えたゴールドローターはボールベアリング式で、両方向に巻き上げる。スイッチングロッカーと減速中間車のスムーズな動きを確保するのは、4カ所に内蔵されたボールベアリングである。また、先述のゼロリセット機構によって秒針が瞬時にゼロに戻るため、時刻を正確かつ容易に合わせることが可能である。ただ、年次カレンダーは文字盤側に格納されているので、そのメカニズムを見ることはできない。
では、A.ランゲ&ゾーネの年次カレンダーはどのように機能するのだろうか。まず、筒車の動きが24時車に伝わる。24時車の上には独立した切り替え爪が固定されている。この切り替え爪は、午前0時になると曜日とムーンフェイズを1日分、先に送る一方で、メインレバーを通じて31日車も1日分、先に進める。31日車は、日付が31日から1日に切り替わる時に月車も一緒に切り替える。では、日数が30日の小の月では、どのように次の月の1日に切り替わるのだろう。この動作のために、月プログラム車と呼ばれる、小の月用の段差を持つディスクが月車と同軸に取り付けられている。小の月の段差を触針が読み取ることで、触針と連結したシーソープレートが月プログラム車から押し出される仕組みだ。毎日の切り替わり時には、メインレバーによってこの触針も動く。この時、触針は31日車の上に固定されたスネイルカムを先に進めようとするが、触針がスネイルカムに噛み合う月末にならないと、このメカニズムは機能しない。小の月の場合、この現象が30日の時点で起こる。なぜなら、触針がシーソープレートとともに月プログラム車から押し出されるからである。