ファイアーファイターを守るテクノロジー
ゼニスのエル プリメロ・キャリバーには、他のムーブメントにはない特徴がある。1時間に3万6000回振動するテンプによって、秒針が1/10秒刻みで進むことだ。1/10秒単位で正確に時間を測りたいのなら、このハイビート機ほど適したクロノグラフはないだろう。1/10秒という単位は、我々が日常生活の中でごく自然に慣れ親しんでいるものである。普通、1/5秒、1/6秒、あるいは1/8秒という単位で時間を計ることはない。では、ゼニスのようなマニュファクチュールにとって、最も自然な形でエル プリメロの強みを利用する方法は何だろうか。これについては、CEOも思案を巡らしていたようだ。「3万6000振動のテンプを搭載したムーブメントがすでに手元にあるのなら、相応しい形でこれを視覚化すべきだと考えたのです」。
ジンの正式社名には、何の理由もなく“特殊時計”(訳注:Spezialuhren/シュペツィアールウーレン)と付け加えられているわけではない。フランクフルトを拠点とするこのブランドは、さまざまな分野のプロフェッショナルなユーザーにプロ仕様の時計を数多く提供している。ラインナップは、極めて防水性の高いダイバーズウォッチから特殊結合方式の回転ベゼルを備えたパイロットウォッチ、そして、探検用のアドベンチャーウォッチに至るまで幅広い。GSG9(訳注:Grenzschutzgruppe 9/国境警備隊第9グループの略)などの特殊部隊で着用されるモデルには、EZM(訳注:Einsatzzeitmesser/ミッションタイマーの略)という名称が与えられており、末尾にはミッションに対応した番号が付けられている。
ミッションタイマー、EZMの中で最も新しいモデルは、消防隊の活動に特化して設計されたEZM7である。この時計の開発には、消防隊長も協力した。消防隊での使用を目的とする時計ならば、優れた視認性が暗所でも求められることは言うまでもない。その上、温度変化や化学薬品、衝撃に対しても高い耐性を有している必要がある。もちろん、耐磁性も高いに越したことはない。ジンは、こうしたあらゆる要求に応えられる技術をこれまでに開発しており、さまざまなモデルで実証してきた。EZM7ではさらに、呼吸用保護具と化学防護服を着用した出動時間をモニタリングできる目盛り付き回転ベゼルも与えられている。
EZM7は、テギメント加工が施されたケースによって極めて頑丈に仕上がっている。テギメント加工という特殊な表面処理をステンレススティールに施すことで、ビッカース硬さは200から1200に大きく向上する。通常の焼き入れ処理では、下層の軟らかい素材が外圧に負けてたわみ、硬い表面層が押しつぶされる、悪名高い“卵殻現象”が発生するが、テギメント加工を施すと、表面層から下層に行くにしたがって硬度が徐々に下がるので、卵殻現象を回避することができる。その上、風防はビッカース硬さ2000のサファイアガラスで出来ているので、EZM7には傷が付く心配がほとんどない。ただし、風防よりもやや低く配置されている回転ベゼルのスケール部分は例外である。ケースは堅固なだけではなく、負圧耐性と、200mの防水性を備えている。消火ホースからの噴射水にさらされると、時計には高い圧力が掛かる。そのため、EZM7のねじ込み式リュウズは動的荷重が加わっても、圧力を巧みに回避できるように設計されている。また、回転ベゼルは4本のネジでケースに固定され、衝撃が加わっても緩まない。