クラシカルに知る時間
自分の作品が大当たりするというのは格別爽快な気分に違いない。レギュレーター表示の腕時計で一躍人気を博したクロノスイスの“作者”、ゲルト・リュディガー・ラングもその種の気分を味わったうちのひとりだ。
レギュレーターとは、かつて天文台や時計工房で正確な時刻を示すものとして使用されていた精密時計である。1950年代にはすでにレギュレーター表示の腕時計が登場していたが、1987年、ラングもこの大型クロックのデザインに範を得て、ブランド初モデルである腕時計を発表した。その名も「レギュラトゥール(Regulateur)」。いかにもフランスの香りが漂うが、これは時計製作の豊かな伝統を誇るフランス語圏の、スイス・ジュラ山脈地方のへのオマージュなのだ(注:日本では「レギュレーター」と英語式のネーミングが用いられている)。
第一弾はユニタスの手巻きキャリバーを搭載した限定品だった。この腕時計は驚くべき早さで完売になり、ラングは手巻きに続くバリエーションとして自動巻きバージョンを発表する。以来、今日に至るまで、ミュンヘンブランド・クロノスイスの看板商品として好調な売れ行きを見せている。また、このモデルの人気により、レギュレーター表示の腕時計を扱うブランドが増えたのも事実だ。
時計作りの伝統に則った、クラシカルウォッチ。
発表から早くも19年経過した2006年の今も、このデザインの影響力は失われていない。明確に区分けされたスモールセコンドとスモールアワー、そしてセンター分針は、やはりインパクトがある。造形の特徴は、保守的、古典的、もしくは堅実という言葉でも表すことができるだろう。クロノスイスのデザインはすべて、時計製作の伝統に身を捧げたようなスタイルといえる。今回のテストモデル「レギュレーター」の各ディテールも、ラングの時計の歴史についての見識の高さがうかがえる仕上がりだ。それは19個のパーツから成るケースにも表れている。ステンレススチールのボディはぴったりと組み合わされ、キズ見を通して見ても鋳造のワンピースケースかのようにきっちりと仕上がっている。パーツ間には、それと分かるようなはっきりした継ぎ目はなく、どこから見てもなめらかで美しい。スクリューバックの裏蓋を見て、ようやくかすかに接合部が判別できるほどだ。
シリンダー形のケースは上下にコインエッジリングが据えられ、玉ネギ形リュウズとともにゆったり拡散する印象を与える。そこにビス留め式のラグが堂々とした風格を添えている。バネ棒とは異なり、ストラップをより確実に取り付けることができ、それでいてフレキシブルに動くこのシステムは、クロノスイスの特許によるものだ。
ケース上下のリング、リュウズ、ラグのビスはポリッシュ、その他の部分はすべてサテンで、メリハリのきいた仕上がりになっている。ポリッシュ、またはサテンのどちらか一方だけの加工では平坦な印象になることもあり、コンビでは部分的に妙に浮いて見えたりもしがちだが、無理なくきれいにまとまっているのはクロノスイスならでは。このように神経質なまでに徹底的に考え抜かれた処理の仕方ひとつ取っても、ブランドが成功した理由が自ずと知れる。
細部に凝っているのはケースだけではない。文字盤上ではポワール形(梨形)の時針をはじめ、それぞれ特徴的な分針、秒針が絶妙な景観を作り上げている。このレイアウトは19世紀中期に流行したスタイル。これを見ると、クロノスイスのモデルが時計デザインの歴史に深く結びついていることが分かる。そのまま見てもエレガントさが伝わるが、針もキズ見を通して見ると、より魅力的なことが分かる。ブルースチール仕立てのそれぞれの針はほっそりと繊細で、先端にまで光沢が行き渡るほど丁寧に磨き上げられている。針留めも目玉状のパーツが華を添え、我々の目をさらに楽しませてくれる。
これらの針を受け止めているのが古典的な文字盤だ。ローマンインデックスの時表示とアラビックインデックスの分と秒の表示はレイルウェイトラックと相まって、美しいアンサンブルを見せている。プリントもパーフェクトだ。しかしながら、文字盤の仕上がりに完全に満足というわけではない。というのも全体が均一にフラットに仕上がっているため、かなり平坦な印象で、生き生きした表情にやや欠けている。例えばスモールセコンドを一段低くしたり、インデックスの塗りに厚みを出して段差をつけると、味わいはさらに深みを増すように思われる。