細部にわたる妥協なき仕上げが、絶妙なバランスを生み出す。
レギュレーターダイアルの視認性についてはとやかくいうべきではないだろう。当然ながら、時・分・秒がすべて分離したデザインは、レギュレータークロックをふだん見慣れていない限り、手首の上で読み取るには慣れが必要だ。だが配置の違いに一瞬は戸惑うものの、すぐになじんで判別できるようになる。しかしそれも明るい場所だけの話。あくまで古典的であって夜光塗料は使用されていない。
さて肝心の精度だが、お借りしたテストモデルでは手本としたクロックに匹敵するというところまではいかなかった。検査器での結果は、姿勢差で11秒、平均日差は7・3秒を記録した。許容範囲内のデータではあるが、着用テストでの平均値同様、最良の域には達していない。週に一度は時報などで針合わせすることをお勧めしたい。もっともストップセコンド仕様ではないため、秒単位で正確な針合わせは難しいかもしれない。振り角も同様に、完全に満足がいくところまでは達しておらず、もうひと息の落ち着きが欲しいところだ。しかし、文字盤を上に平置きした状態では300度を超え、力強さを証明した。
ムーブメントは3Hzで脈打つ。今どきの最新式ムーブメントと比べるとずいぶんゆったりとしているが、クラシカルな風貌の時計にはふさわしいテンポだろう。一連の動きを司るのはキャリバーC.122である。エニカのキャリバー165をモディファイしたムーブメントだ。エニカ165は審美的観点よりも産業的な利便性を強く打ち出した構造ではあるが、1970年代の革新的ムーブメントのひとつに挙げることができる。ひと頃はエニカといえば、イコール165というくらい、パンとバターのように切っても切れない存在だった。
しかしクォーツクライシスが訪れて、この機械式キャリバーの設計図にも大きくバツ印がつけられたような事態となり、エニカは操業終了となったのだった。そしてこのエニカキャリバーのストックはひとまとめにラングの手に移り、クロノスイスのさまざまなモデルのベースに使用されてきた。オールドストックムーブメントを多く取り入れてきた同社のラインナップの中でも、エニカ165は他社モデルには搭載されておらず、独占使用のキャリバーなのだ。
オリジナルは中三針だが、「レギュレーター」では時・秒がオフセンターに作り替えられている。モディファイされているのはそればかりではない。多くの箇所に技術的な改良が加えられ、化粧直しが施されて、クロノスイスの作品として生まれ変わっている。例えば元は両方向巻き上げ式だったローターは新たに設計され、片方向巻き上げ式に変更されている。技術的なアップデイトとともにルビーも6点追加され、C.122は30石となっている。シースルーバックのガラス越しにムーブメントを見ると、ブリッジのコート・ド・ジュネーブと地板のペルラージュの取り合わせも無理なくまとまっている。そこへ美しく磨かれたネジと歯車が、競わんばかりに輝きを放っている。