29年前の逸品を祖とする、華麗なクロノグラフ
29年前、ジュネーブ最古を誇るマニュファクチュール・ブランドであるヴァシュロン・コンスタンタン(以下VC)は、きわめて特殊なモデルを出すという勇気ある行動に出た。頑健なステンレススチールケースに特徴的な同素材のブレスレット、そして人目を引くベゼルに皆がピクリと反応した。この時計は通称「222」のコードネームで呼ばれた。
これは別に暗号だったわけではなく、数が222本限定だったところから来ている。1977年にVCの創立222年を記念して発表されたモデルなのだ。同社の広報によるプレスリリースには次のように記されている。「私どもヴァシュロン・コンスタンタン(当時の日本語表記では“バセロン・コンスタンチン”)は機能的でコンテンポラリーな、当社ならではの時計を発表いたします。この新作のコードネームともいうべき「222」には私どもの誇りが込められています。
「222」の先進性に時代は遅れて追いつく
吟味された言葉で綴られながらもやや華やかさに欠けた宣伝文だったこのモデルは、同時代に発表されたオーデマ ピゲのロイヤル オークやパテック フィリップのノーチラスなどのようなロングランヒットには至らなかった。ジャガー・ルクルトキャリバー搭載の完璧な仕上げ加工のモデルだったにもかかわらずだ。しかし現在では、時計コレクターにとって、70年代モデルの欠かすことのできない一本となっている。そしてこのモデルこそが、それから19年後に登場した「オーヴァーシーズ」の原型となった。
旧バージョンのオーヴァーシーズにおける我々の評価は高いが、たったひとつの難点はメタルブレスレットである。というのも堅すぎてスムーズに動かなかったのだ。輪が重たく感じられ、しかもブレスレットのコマがすぐ腕の毛を挟んでしまい、悩まされる作りだったのだ。しかしケースと文字盤はほとんど文句なしの出来栄えで、フレデリック・ピゲ(以下FP)を基にしたキャリバーも同様に批判の余地を与えなかった。
ディテールは熟慮の上、丁寧に作られている
それから8年の月日が流れ、機が満ちて新バージョンのオーヴァーシーズ・クロノグラフは発表された。2005年の創立250年を目前に(訳者注:2004年の発表時)、機械式複雑時計の革新を祝うにふさわしいモデルだ。革新といってもまったく新しいものが発明されたわけではない。それは過去の時代に時計界がすでに十分なだけやってのけている。249の発表も222のときと同様に控えめであることを旨としていたが、旧バージョンで欠けていた部分は補い、より洗練されたことは間違いない。
まず、文字盤の下では、FPキャリバーが軟質スチールのインナーケースに格納され、今日、至る所から受ける磁気の影響から守られている。さらに、ブレスレットには格段の改良が加えられた。旧バージョンとはなんたる違い! 表面はなめらかでしなやかに動き、縁も鋭くない。バックルも機能的で、マルタ十字は鏡面とサテンの両研磨で手をかけて仕上げるスタイル。外観も肌触りも、価値高い時計にふさわしい仕上がりだ。ケースとブレスレットを製造したのは専門メーカーのHGTプティジャン社。VCの他、リシュモン傘下のメーカーに供給を行っている。