【85点】タグ・ホイヤー/ オウタヴィア ホイヤー02 クロノグラフ

2018.09.07

ブレスレットの要はバックルにあり。使い勝手が良く、機能美がさえている。

日常使いに優秀さを発揮

 ベゼルとリュウズに並んで、外装の使い心地はほかの点でも満足できるレベルだ。直径42㎜のミドルケースと7連ブレスレットは腕への収まりが良く、片折れ式のフォールディングバックルはしっかりした作りの上、ふたつのセーフティーボタンで開閉も快適に行える。

 時分針とインデックスには夜光塗料が施されているが、インデックスの塗布部分はかなり面積が小さい。夜光塗料は暗がりではグリーンに光るが、明るいところではベージュ色に見え、それがレトロな雰囲気を強調している。昼間は時間もクロノグラフの読み取りも上々だ。ひとつだけ難を言うならば、スモールセコンドのサークル内にある日付表示窓がとても小さく、数字も細字のフォントでプリントされていることだ。デザイン的には良いが、実際に使うとなると不便だろう。着用者がオウタヴィアと同様に50代ならば、視力が落ちており見づらいはずだ。

外見はレトロで中は最新式。自社開発キャリバー ホイヤー02はコストカットを意識しながらも工夫が凝らされ、賢くまとめられている。

 しかしこのモデルの優れたところは使い勝手だけにとどまらず、精度にも表れている。歩度測定器に掛けると平均日差はプラス3秒、うれしいことに各姿勢の数値はクロノグラフのオン/オフにかかわらず差が見られなかった。クロノグラフ作動時にも振り角の落ちはなく、短時間の計測ではテンワの動きもクロノグラフ非作動時のように大きかったため、エネルギーの伝達が効率的だったことを示している。着用テストでは日差はプラス1秒からプラス4秒の間だった。クロノスドイツ版の厳しい採点基準からすると、最大姿勢差が8秒ということを除けばまずまずの結果と言えるだろう。

 ちなみにこの腕時計はパワーリザーブが約80時間となっているが、この数字には余裕があるようだ。今回のテストでは週末長めに保管庫に入れて経過を見たが、実際に止まったのは87.5時間後だった。

 このモデルは最初に見た時から好印象だったのだが、テスト期間の全体を通して評価は確固たるものになっていった。オウタヴィアはじっくり練られた円熟した魅力をたたえ、抑制も利いている。テストでちょっとした不満点もいくつか感じはしたが、それはこちらの年齢によるものかもしれない。ともあれ、50代も半ばとなったオウタヴィアは、完璧すぎないからこそ味があるのだ。

血気盛んな時代

 1960年代と70年代のモータースポーツにおけるドライバーは実に向こう見ずだった。スピードに集中し、勝つことに絶対的な意志を持ち、それが命と引き換えになることもまれではなかった。オウタヴィアの所有者としても有名なふたりも例外ではない。F1および耐久レースのドライバーだったジョー・シフェールは、1971年に英国ブランズハッチで行われたF1レースで死亡。また、F1のさまざまなグランプリで優勝したヨッヘン・リントは、1970年のイタリアグランプリの予選中に不運にも命を落としている。リントが個人的に所有したオウタヴィアは1966年製の第3世代Ref.2446で、今回取り上げたモデルの基盤となっている。シフェールとリントは当時のドライバーを代表する存在で、オウタヴィアを真のスポーツウォッチとして認知させた立役者だった。

著名なオウタヴィア所有者だったF1ドライバーのジョー・シフェール(右)。
1971年に公開されたスティーブ・マックイーン主演の映画『栄光のル・マン』はシフェールがアドバイザーとして協力している。

1969年撮影のスチール。
シフェールが白い文字盤のオウタヴィアを着用している。

1966年製のオウタヴィアを着けたヨッヘン・リント。
このモデルが最新型の基となっただけに、外観に共通点は多い。