流行に左右されないデザイン
このポルトギーゼのデザイン上の美はどこに集約されているかというと、控えめであり悪目立ちしないという点に尽きる。スタンダードなスーツや職人の手仕事による紳士靴のように時代が移り変わっても色褪せず、さまざまなシチュエーションに合わせられる。サブダイアルの大きさもさることながら、アラビア数字も大きく明確なので時間の読み取りも簡単だ。ただし、それは周囲が十分に明るい場合の話である。夜光塗料が使われていないため、暗がりでは不便さを感じるだろう。
文字盤はゆったりと大きな構成ではあるが、その分サブダイアルと数字の配置にせめぎ合いも生じている。それに際してIWCが選択したのは、位置取りの配分を優先して数字の12と6を一部カットすることだった。数字の欠けは見栄えの良くない箇所として、デザイン的には玉にきずとなっているかもしれない。大型ムーブメントにおいてそれを防ぐ唯一の方法として、サブダイアルを文字盤の縁ぎりぎりまで持ってきて、12と6の数字が完全に隠れた状態にするということもできなくはなさそうだが、そうなると視認性は下がってしまうだろう。
総合すると、今回のポルトギーゼはやはり非常に調和のとれたデザインで、確固たる好ましさがある。今までのポルトギーゼはなんといっても仕上がり具合と価格の釣り合いや、自社開発ムーブメントではなかったことが論点となっていた。今やそのふたつが改良されたのだ。自社開発ムーブメントでありながら、価格は78万5000円と、汎用ムーブメントのETA7750搭載モデルと比べて3万円ほどの差しかない。しかもケース裏はトランスパレントで、ムーブメントの姿を鑑賞できるときている。高級感はアップしつつ、8日巻きのポルトギーゼなどよりも価格は明らかに抑えられている。うれしいことに、このモデルは自社開発ムーブメント搭載のクロノグラフとして、IWCの中で最もリーズナブルなのだ。
ポルトギーゼのクロノグラフが麗しいのは今に始まったことではないが、自社開発ムーブメントを使用しているにもかかわらず、かなり落ち着いた価格となったのは実に喜ばしい限りだ。この海の懐のような深い青の文字盤をゆったり眺めつつ、IWC150年の歴史に想いを馳せるのは、充実したひと時になるに違いない