左側に配されたリュウズの効果はいかに?
通常とは逆のポジションにリュウズが配されていたオリジナルモデルでは、手で巻き上げる必要のない自動巻きのクロノグラフであることが一目で分かるのが特徴だった。だが、左側にあるリュウズには本当にメリットがあるのだろうか。実際、メリットと言えるのは、手首を曲げた時にリュウズが手の甲に当たって不快な思いをすることがないという点のみだろう。残念ながら、デメリットの方が多いようである。右利きのユーザーであれば、時刻合わせや巻き上げ時に時計を手首から外さなければならない。やはり左リュウズの時計を左手に着用したまま、右手で操作するのは容易ではないからである。かといって右手に着けてしまうと、時計を着用したままリュウズを利き腕の右手で操作することは不可能なため、利き手ではない左手での調整を強いられることになる。
これとは対照的に、ムーブメントの高い品質は喜ばしい。ベースとなっているセリタ製自動巻きムーブメント、キャリバーSW300は、〝プレミアム〟と呼ばれる加工ランクの高いもので、設計においても品質においてもETA2892A2の〝トップ〟ランクと同等である。つまり、クロノメーターと称するに値する品質を有しているのだ。だが、タグ・ホイヤーはこのムーブメントをスイス公認クロノメーター検査協会(C.O.S.C.)に送って認定を取得することはしていない。しかし、テストウォッチの平均日差は歩度測定器上ではプラス6・3秒/日、実際に着用した場合はプラス4〜8秒/日とまずまずの結果で、最大姿勢差も8秒と許容範囲内であり、クロノメーターに準じたクォリティであることを確認することができた。
文字盤側に載せられているために見ることのできないクロノグラフモジュールは、カムによる作動方式を備えている。シンプルながらも効果的なこの作動方式はETA7750でよく知られたものである。クロノグラフは現代的な垂直クラッチで動力が連結されて作動を開始するため、スタート時に針飛びを起こすことはまずない。クロノグラフ作動時の精度が、どの姿勢でもクロノグラフ停止時とあまり変わらないのもうれしい。
通常とは異なるリュウズのポジションに慣れが必要な点以外で欠点を挙げるとするならば、視認性にやや難があることだろう。これは、多色使いのカラフルなダイアルに起因する。だがこれが、モナコのようなカルト的人気を誇る時計から愛好家の気持ちがそれる理由になるだろうか。魅力的なデザインや秀逸な加工、そして、モナコに込められたレーシングスポーツへの情熱を断念する愛好家はいるだろうか。まるで血のように流れるガソリンを感じ、エポックメイキングなスポーツウォッチのデザインを熟知している者ならば、ホイヤー モナコ キャリバー11 クロノグラフ ガルフ エディションを決して手放さないはずである。