【81点】タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

2021.05.15

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフで唯一のストラップモデル。時分秒針および積算針とインデックスのゴールドカラーはコーティングによるものだが、リュウズとプッシュボタンは18Kローズゴールド製である。

 クロノグラフ愛好家にとても人気の高い文字盤スタイルにコンパックスレイアウトがある。その多くのモデルでは3時、6時、9時位置に積算計とスモールセコンドが置かれているが、これは偶然そうなっているわけではない。人間の目は横並びになっているため、シンメトリーな配置は見やすいと感じるのだ。そして20世紀中期のクラシックなクロノグラフデザインを彷彿とさせるところにも愛好家に支持される理由がある。

 タグ・ホイヤーが現行カレラのクロノグラフにコンパックスレイアウトを復活させたのは2018年だった。これにはその数年前にオータヴィアで初導入された自社開発ムーブメントのキャリバーホイヤー02が搭載されている。もっとも、このモデルで強調されているのはオープンワークの文字盤と共に金属の質感を生かしたバックルなどの技巧的な造形で、古典的というよりもアバンギャルドと感じさせる仕上がりだ。キャリバー ホイヤー01を搭載した以前主流だったカレラは縦3つ目のスモールダイアルだっただけに、タグ・ホイヤーが新たなモデルにどれだけ力を入れていたのかが分かる。

Cal.ホイヤー02

約80時間のパワーリザーブを誇る自社製ムーブメント、Cal.ホイヤー02。ブラックカラーのローターには透かし彫りが施される。

 そしてタグ・ホイヤーの創業160周年を迎えた20年、このキャリバー ホイヤー02を搭載したカレラはフルモデルチェンジを敢行した。これによりカレラには「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ」と「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ」という、それぞれ4つのモデルから構成されるふたつのコレクションがそろうこととなった。前者は後者よりもケース径が2mm大きい直径44mmで、タキメーター付きの幅広なベゼルに加え、存在感のあるリュウズとプッシュボタンが特徴的だ。そのうち3つのモデルがメタルブレスレット仕様で、ひとつがブラックアリゲーターストラップ仕様になっている。今回のテストには、この「タグ・ホイヤー カレラ キャリバーホイヤー02 スポーツクロノグラフ」より、スポーティーさと気品のコンビネーションが魅力的なレザーストラップモデルを取り上げた。

きめ細やかな加工

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

30分と12時間の積算計は、内側にレコードを想起させる溝が型押しされている。また、文字盤全体にも浅くヘアラインが同心円状に施されていることが見て取れる。

 このモデルをつぶさにチェックすると、我々編集部員の厳しい目をもってしても加工に隙がないと分かる。複雑な形状のインデックスが置かれ、高低が立体的に付けられた文字盤や針、セラミックス製のベゼル、鏡面とサテン仕上げを組み合わせたケースはどれを見ても欠点はなく、堂々たる出来だ。加えて言うべきはリュウズとバックルの使い心地のよさだろう。リュウズは溝がくっきりと付けられているので滑りにくく、バックルはストラップをしっかり押さえていながらサイドボタンでフラップの開閉が容易にできる。クリップ式の金具なので、ストラップの長さの調整が簡単なのもいい。

 もっとも、ストラップモデルは70万5000円と、メタルブレスレットモデル(61万5000円)より少々値が張る。その理由はリュウズとプッシュボタンが18Kローズゴールド製だからだ。それがスポーティーさの中にも独特のエレガントさを醸し出し、新たなカレラコレクションを形成する要素となっているのだが、必ずしもこの意匠がすべてのクロノグラフ愛好家やスポーツウォッチ愛用者の好みに合うとは限らないだろう。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

タキメータースケールが刻まれるベゼルはセラミックス製で、サイドと目盛りが入ったトップがサテン仕上げ、スケール部分がポリッシュ仕上げであることが分かる。ラグはカレラの伝統に即した長めのものだ。

 クロノグラフデザインとして定型ではあるが新作の文字盤は上品で、アクセントの役割を的確に果たしている。この時計の〝顔〞を特徴付けているのは、外周を立体的なリングに仕立て、その内側にレコードのような溝を付けた30分と12時間、ふたつの積算計だろう。一方スモールセコンドは、積算計とは逆に外周リングを窪ませている。この立体構造の文字盤の上で、パワフルな蓄光塗料とブラックラッカーが塗布された時分針が、インデックスと共によく映えるのだ。

 しかし綿密に計算され、きっちり詰まったデザインは時計の顔としてきれいなまとまりを見せているのだが、惜しい部分もある。6時位置の日付表示の窓がスモールセコンドに食い込んでいるので、シンメトリーな調和に文字通り穴を開けてしまっている感じが否めない。何よりも日付のディスクが白いのは、いささか目立ち過ぎるようにも思える。このディスクも暗色でそろ
えたなら、そこだけ浮いては見えないはずで、全体的にもっと引き締まるのではないだろうか。

現代的な自社開発キャリバーを搭載

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

バックルはクリップ式でストラップの長さを手早く調整可能。隅から隅まで機能的に出来ている。

 とはいえ、日付表示がそのような配置になっているのは、搭載される自社開発ムーブメントであるキャリバーホイヤー02
の構造のためだ。このムーブメントはクロノグラフの制御が細やかなコラムホイール式で、クラッチは作動がより確実で摩耗が少ない垂直式を採用。約80時間のパワーリザーブを持つ大型の香箱を備え、ローターはコンテンポラリーな黒く着色された透かし彫り仕上げだ。ムーブメント径は31mm、厚さは6.9mmで、古参の量産クロノグラフキャリバーとして普及しているETA7750より1mm薄い。

 さて、その精度はどうだろうか。着用モデルを歩度測定器に掛けたところ、平均日差はプラス0.7秒、姿勢差は最大12秒だった。最大姿勢差は理想的な値ではないが、ひどくかけ離れているというほどではない。日々の着用テストでは夜間は外していたのだが、明らかに遅れ傾向が見られ、動態精度は歩度測定器による静態精度をやや下回り、日差はマイナス1〜マイナス5秒となった。

長所は短所を上回る

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフのバリエーションは4つ。レザーストラップモデルのほか、ステンレススティール製ブレスレットのモデルが3種類ラインナップされる。

 総評すると、精度がやや物足りなく、日付表示にあと一歩工夫がほしいものの、針、文字盤、ケース、ストラップに粗が見当たらない加工の優秀さ、着脱するたびに感じる装着感と操作性の良さが上回る。ムーブメントも手仕上げの装飾部分が少ないとはいえ、目を楽しませてくれ、考え抜かれた構造も評価したい。

 だが最大の長所はやはりこれだろう。今やカレラは自社ムーブメントを搭載した上で、クロノグラフデザインの象徴とも言うべきコンパックスの顔を持つに至った。このことが何を置いても心をくすぐるのだ。