かつて「タンジェント デイト」は手巻きで、6時位置のスモールセコンドの下に日付表示があった。日付のクイックコレクト機能を持たなかったため、修正をする場合は、該当する日付が出るまでリュウズをひたすら回してディスクを動かし、表示を替えていくほかない。それは非常に面倒な作業なので、ちょっとしたコツを知っていれば、日付を1日分進めるのに針を24時間分回さなくても済む。長・短針がひとまず真夜中の午後12時を越えて日付表示が切り替わったら針を午後9時あたりにいったん戻し、そこからまた午後12時過ぎまで針を進めて日付表示が切り替わった後、再び午後9時に戻すということを繰り返すことで、日付修正の手間を短縮できるというわけだ。しかし以前のタンジェント デイトはすでに廃番となっている。
2018年に、このモデルのムーブメントは自社開発の新型手巻きムーブメント、キャリバーDUW4101に変更された。日付表示の位置は以前と同じく6時位置にあるが、その小窓は大きくなり、リュウズで日付のディスクを前後に動かして素早い修正が可能になっている。
同じ年に発表されたのが「タンジェント ネオマティック 41 アップデイト」だ。このモデルに、一層エレガントな雰囲気が漂うミッドナイトブルーの文字盤が新色として加わった。ノモス グラスヒュッテの他のラインナップと同じように特許を取得した日付機構が組み込まれているが、その表示方法はまったく別のものが採用されている。日付表示として一般的な小窓がないスタイルなのだ。
詳しく言うと、文字盤に日付を示すための穴は開けられているのだが、それがひとつだけではなく31カ所に設けられている。日付の数字は文字盤外周に沿って配置され、その左右にあるふたつの穴(開口部)に挟まれるようにして示される。該当する日付の両側にある穴の下からネオングリーンのディスクを見せることで、日付を表示するようになっているのだ。
ひとつの窓で日付を表示するという見慣れた方法を採用すると、薄型ウォッチのエレガントさに差し障りが出てしまうが、このモデルにはそうした窓がない。従来のスタイルの日付表示は確かに読み取りやすいが、言葉を尽くして必要だというほど説得力のある機構ではないだろう。スモールセコンドと重なって配置されるよりも、むしろない方がいいという時計愛好家が圧倒的に多いに違いない。そして日付表示を進めたり戻したりできる機構のほうが、他社製の汎用ムーブメントであっても、自社製ムーブメントであっても、今や優勢である。
薄型の自社製ムーブメント
新型モデルではこれまでのイメージを引き継ぎながらも、今までとは違う方法が導入されている。新たなタンジェント ネオマティック 41 アップデイトにはノモスの新世代ムーブメントであるドイチェ・ウーレン・ヴェルケ、略してDUWのムーブメントが搭載されている。今回のテストモデルも両方向巻き上げ式センターローターの自動巻きキャリバーDUW6101を使用。直径35.2mmというサイズは、直径25.6mmのETA2892と比較すると巨大だが、厚さはETA2892と同じ3.6mmに抑えられている。3.6mmという薄さでありながら、日付表示は特許を取得した新機構を組み込み、両持ちのテンプ受けを採用した堅牢な構造を持っている。
脱進機には2014年に発表された自社開発の「ノモス・スウィングシステム」を採用し、テンプには青色のヒゲゼンマイを使用している。さらに姿勢差調整は一般的な5ポジションではなく6ポジションで行われていることや、各所の装飾に加えてローターに入文字がレリーフ仕立てになっていることも長所に挙げられるだろう。この薄型ムーブメントでひとつ残念なのは、緩急針がひとつのネジで調整するタイプではなく、ダイレクトに位置をずらすタイプを採用しており、いささかエレガントさに欠ける点だ。
精度に関しては、非常に優秀な計測結果が出た。歩度測定器に掛けたところ、平均日差はマイナス0.7秒、数週間にわたる着用テストでの測定結果はほとんどが0秒もしくはプラス1秒。毎日夜間と、時折は昼間も長時間キャビネットの上に平置きしていたが、その場合でもプラス3秒からプラス4秒と、優秀な数値にとどまっていた。しかし姿勢差が最大11秒にも広がっていたことは、採点に厳しいクロノスドイツ版編集部としては見逃せない点であった。
精度が非常に優秀なのは喜ばしい限りだが、それ以上に良いと感じるのはこのモデルでタンジェントの外観に新たなバリエーションが加わったことだ。ミッドナイトブルーの文字盤と日付を示すネオングリーンは、かなり思い切った大胆な組み合わせのように見えるが、理にかなった方法で新鮮さと個性が体現されている。文字盤の他のディテールは例によって整然としていて、全体的にバランスが良い。
また、3本の針の長さもよく考えられている。針とインデックスは蓄光塗料がない仕様だが、それがノモス グラスヒュッテのやり方だ。シンプルかつエレガントなタンジェントは、すべての表示が完全に見やすいとまでは言えないほどの細さで統一されているが、それはドイツ工作連盟とバウハウスのデザイン理念の流れをくんでいることの強調でもあるのだ。
ケースとストラップ
ケースの側面が垂直に立ち上がった寸胴型のケースと角度を付けた薄いラグも、かつてのデザイン学校バウハウスにインスパイアされたものだ。ラグの裏面はエッジがシャープに立てられている。これは着用している時は快適さゆえに気づかないが、指でなぞると分かる。
ラウンド型のステンレススティール製ケースは表と裏の両面にサファイアクリスタルが取り付けられ、直径が40.5mm、厚さはわずか7.8mm。ノモス グラスヒュッテに不均衡の文字はない。プロポーションはきちんと整っているのだ。
「タンジェント ネオマティック 41」自体は2015年に登場したシリーズだが、今回のモデルはその名の通り、まさしくアップデートされたバージョンである。以前のバックルはブランド名こそ入ってはいるが素っ気ないほどシンプルなものだった。しかし、このモデルではつややかに磨き上げられた「ウイングクラスプ」に替えられた。丁寧に加工された上質なツク棒はこれまでの同ラインナップにも見られたが、このモデルでは、幅広い部分に整然と彫り込まれているブランドロゴに至るまで、バックル全体のクォリティが明らかに上がっている。
ストラップはこれまでと同じくシカゴのホーウィン社製シェルコードバンを使用しているが、縁は裁ち切りではなく、表革でくるんで裏革を当ててからステッチを入れたものになった。見た目がタフそうなのは変わっていないのだが、裏革表面のなめらかさにむらがあるのと、表革にかき傷やバックルが当たった痕が目立ちやすいのは残念だ。今回借りたテストモデルの場合は、ストラップの定革もざっくり縫って輪につないだだけのものを、ストラップ本体にのり付けしてあったのが少々気になった。
この点は、ノモス グラスヒュッテの時計をテストする際にいつも感じることである。些細なことかもしれないが、純正のストラップがさらにしっかりしたものになれば、大抵の時計愛好家はより気に入るはずだし、少なくとも減点対象にはならないだろう。50万6000円という価格の腕時計として、もっとそれに見合うだけのストラップはあるように思えるのだが。
こうした感想はあるものの、「〝アップデイト〞はアップグレードたり得るか?」という命題には結論が出たように思う。ノモス グラスヒュッテは独自の日付表示システムを持つ新世代キャリバーで、明らかに質が向上した。そして日付表示に従来の小窓を設けることを選択せずに、調和のとれた文字盤の表現に到達したのだ。これはノモスの全ラインナップに通じる快挙だろう。まさしくアップグレードそのものだと評価したい。