【76点】オリス/アクイス デイト アップサイクル

2022.08.04

アクイス デイト アップサイクル

サステナビリティに積極的に取り組むオリス。リサイクルプラスティック製のパーツを採用したモデルは、今回テストした「アクイス デイト アップサイクル」で2作目だ。

 サステナビリティ」は昨今、時計産業においても人気のキーワードとなっている。各ブランドが注力する環境保全への取り組みは、すでにさまざまなかたちで成功している。ショパールは18Kエシカルゴールドのみ使用し、パテック フィリップとIWCの新工場は厳しい環境基準を満たし、ブライトリングは漁網などの海洋廃棄物をリサイクルした、アウターノウンとのパートナーシップによるテキスタイルストラップを豊富にラインナップしている。個別に見れば小さな歩みかもしれないが、こうした発想の転換に賛同する動きが多くの時計ブランドにも広がっている。

 スイスのバーゼル=ラント準州のヘルシュタインを本拠地とするオリスが追求するサステナビリティコンセプトは多岐にわたる。サメの研究者やサンゴの飼育者、またドイツ、デンマーク、オランダが共同で取り組むワッデン海連邦事務局(CWSS)などを支援するオリスは、資金面だけでなく、ブランドの持つ人気と知名度によってパートナー組織の認知度を高めることにも貢献している。

 オリスは1904年創業の魅力的な時計ブランドであり、コストパフォーマンスの高さ、素晴らしいデザイン、考え抜かれた技術により、幅広い層を魅了してやまない。ソーシャルメディアが発達した今日においては、人々が自身の感動を直ちに発信できるので、これまで必ずしも時計に興味を持っていたわけではない層にまで情報が届くようになった。

タイド・オーシャン

オリスとパートナーシップを結ぶタイド・オーシャン社。深刻な海洋汚染問題の解消に挑む。

 こうしたチャネルを通じて、オリスは四半期に1度、世界中の海岸で開催される独自のクリーンアップデーへの参加を呼びかけることに成功している。オリスはワールド・クリーンアップ・デーにも、世界のビジネスパートナーやサプライヤーとともに何年も前から参加している。オリスが掲げる「チェンジ・フォー・ザ・ベター(より良い社会への変革)」を実現するため、新しいパートナーであるタイド・オーシャン社は、海洋プラスティックをリサイクルした特別なゴミ収集袋をデザインした。

 このように、良い意図が着実に実行に移され、循環の輪が完成する。環境保全のための多くの取り組みが評価され、オリスは2021年に気候中立企業に認定された。民間の気候変動対策専門機関であるクライメートパートナーによって、二酸化炭素排出量の削減やカーボン・オフセットに成功したことが証明されたのである。

プラスティック廃棄物をデザインの要素に

PETプラスティック

海や海岸で回収されたプラスティックごみは粒状に加工され、文字盤の材料となる。

 新しい「アクイス デイト アップサイクル」は、オリスの多様な環境保全活動を形成するひとつの要素である。海洋プラスティックを再利用したふたつ目のモデルで、今回は裏蓋のメダルではなく、リサイクル海洋プラスティックを文字盤に採用したところに攻めの姿勢が感じられる。〝人目を引く〞ことをコンセプトとした結果だ。この時計を見れば誰しも、カラフルな文字盤に興味を引かれ、何の素材で出来ているのかを着用者に尋ねずにはいられなくなるだろう。

 文字盤の表面には、海中や海岸で回収されたPETプラスティックが使用されている。リサイクル材で出来た文字盤ディスクは、透明なプラスティック粒子によって金属の地金が透けて見えないように、表面が塗装された真鍮製のプレートに取り付けられている。文字盤の模様はランダムに生まれるもので、同じものはふたつとない。ケース直径41.5mmと36.5mmのモデルを並べた写真が示すように、1本1本が世界にひとつしかない腕時計なのである。

 文字盤の周囲には、セラミックス製の目盛りを配した、グレーという珍しいカラーの逆回転防止ベゼルが装備されている。300mの防水性はねじ込み式リュウズによって確保され、リュウズは2本のビスで固定されたリュウズガードで衝撃からも保護されている。裏返すと、オリスのトレードマークである赤いローターを備えたセリタ製のムーブメント、キャリバーSW200がメカ好きな時計愛好家の目を楽しませてくれる。

クリーンアップ活動

オリスは2021年、気候中立企業に認定されたブランドだ。時計製造だけではなく、世界中で行われるクリーンアップ活動や、環境保護団体とのパートナーシップを結ぶなど、積極的に活動を続けている。

高い品質の外装

 アクイス デイト アップサイクルの頑丈なステンレススティール製ブレスレットは、しっかりと留まるセーフティーフォールディングバックルを備えている。今回テストしたメンズモデルにはエクステンション機能も付いており、薄いプレートではなく堅牢なメタルパーツで出来ているため、品質的にも外観的にもブレスレットと美しく調和し、かつ実用的なのが特徴だ。エクステンションは13mm延長することができるので、薄手のダイビングスーツなら上から着用することが可能だ。つまり、厚さ3mmのクロロプレンゴム製ウェットスーツで潜水できる暖かい地域であれば、ウォータースポーツにも適している。

 今回のテストウォッチはバランスが良く、デイリーユースにはほぼ完璧である。暖かい日やスポーツ中に手首がきつく感じられた際、クイックエクステンションによる調整では長すぎる場合は、先の尖ったものを使ってバックルのバネ棒をふた穴分、外側に動かすと程よく緩めることができる。

アクイス デイト アップサイクル

アクイス デイト アップサイクルのレディスモデルはケース径36.5mm(左)。今回テストしたのはケース径41.5mmのメンズモデル(右)である。

 ブレスレットは作りが良い。同様に高品質のステンレススティール製ケースへの取り付け面がかなり幅広いのは好みが分かれるかもしれないが、いかにもアクイスらしい意匠で、ツールウォッチ特有の屈強な外観が完成している。

 アクイス デイト アップサイクルで違和感を感じるのは、むしろ日付窓である。アクイスでは通常、黒い日付ディスクが採用されており、ブラックやグレー、ブルー、ダークグリーン、ダークレッドなどの文字盤と相性が良い。だが、今回のモデルでは日付ディスクが白く、廃プラスティックの明るい色を考慮すると理にかなっているとも言えるが、真っ白な長方形は異質に感じる。ここはあえて付加機能よりもデザイン的な調和を優先させ、日付を省略する勇気があってもよかったかもしれない。

高い信頼性が実証されたムーブメント

キャリバーSW200

定評のある高精度な自動巻きムーブメント、セリタのキャリバーSW200。ローターにはオリスの特徴でもある赤いペイントと、その外周にサンレイ仕上げが施される。

 この日付ディスクは針と同様、オリスのトレードマークである赤いローターで装飾されたセリタ製のムーブメント、キャリバーSW200で駆動される。ローターを除いてムーブメントには装飾が施されておらず、魅力的な価格で提供できるよう、シースルーバックの裏蓋はサファイアクリスタルではなくミネラルガラス製になっている。

 セリタ製のキャリバーSW200には4種類のランクがあり、オリスはそのうち比較的シンプルな「スタンダード」と「スペシャル」の2種類を合わせたものを採用しているが、歩度測定器によるテストでは良い結果が出ている。全姿勢の平均日差はプラス6・2秒/日で、最大姿勢差は4秒と十分に小さいものだった。

 信頼性が高く、使い勝手の良いアクイス デイト アップサイクルは、今回テストしたメンズモデルのほか、ケース径が5mm小さいレディスモデルもあり、双方とも27万5000円である。

 素晴らしいのはこのモデルが限定生産ではないことだ。時を刻む〝環境大使〞への関心がなくならない限り、オリスはこのモデルを作り続ける。もちろん数百個、数千個の文字盤を作っただけで海からプラスティックごみが消えるわけではない。だが、オリスが海洋汚染という重要な環境問題に対して注意を喚起する手法は魅力的であり、オリスが数多く手掛けるサステナビリティへの取り組みを見ても、アクイス デイト アップサイクルが単なるスタートではないことは明らかである。