1969年、セイコーが世界に先駆けて商品化した自動巻きクロノグラフ「スピードタイマー」。その伝説的なタイムピースの名を持つ新コレクションが、セイコー プロスペックスから発表された。半世紀以上に及ぶスポーツ計時の伝統を受け継ぐクロノグラフの新コレクション。その開発に込められた想いに迫る。
鈴木幸也(クロノス日本版):文 Text by Yukiya Suzuki(Chronos Japan)
2021年12月 掲載記事
SEIKO PROSPEX “SPEEDTIMER”
新コレクションのラインナップはふたつ。コラムホイールと垂直クラッチを採用した自動巻きメカニカルクロノグラフと、光発電クォーツ式のソーラークロノグラフだ。
1964年に東京で開催された国際的なスポーツ競技大会で公式計時として採用されたストップウォッチ。この大会に向けて開発を開始した61年頃、セイコーのストップウォッチはスポーツ計時で使用できるほどの精度はなかったという。だが、わずか3年で0.01秒単位の高精度な計時を実現し、世紀の一大イベントの成功に大きく貢献した。
1964年のストップウォッチの設計思想と意匠を受け継いだ最新のクロノグラフ。先端を曲げたクロノグラフ秒針は文字盤外周まで届き、高い判読性を確保。自動巻き(Cal.8R46)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径42.5mm、厚さ15.1mm)。10気圧防水。世界限定1000本。35万2000円。
限定版とは異なり、レギュラーモデルは1964年に発売された国産初の腕時計クロノグラフをモチーフとし、時分針、インデックス、プッシュボタンの形状を意匠に取り入れている。自動巻き(Cal.8R46)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径42.5mm、厚さ15.1mm)。10気圧防水。33万円。
1964年に発売されたストップウォッチ機能を腕時計に組み込んだ国産初の腕時計クロノグラフ。信頼性の高かったクラウンのムーブメントをベースに、コラムホイールと水平クラッチを搭載したワンプッシュクロノグラフ。センターのクロノグラフ秒針をプッシュボタンでスタート/ストップ/リセットさせる。
企画を担当した加藤秀明氏は「1960年代当時、世界の有力ブランドが〝夢の機構〞とされた自動巻きクロノグラフの開発に挑む中、いち早く量産化に漕ぎつけた我々の先人たちの堂々たる偉業、その挑戦心と情熱を世の中にきちんと伝えたい」と新コレクションを立ち上げた動機を語る。その熱い想いを形にすべく、約1年半かけて、通常の数十倍もの試作品を製作し、デザイン部門と研究開発部門の総力を挙げて生み出したのが、この新作クロノグラフである。
(左下)シースルーバックからは自動巻きムーブメントCal.8R46を見ることができる。クロノグラフ機構は文字盤側に搭載する。(右下)細部まで丁寧にヘアライン仕上げが施されたラグ。
「スピードタイマー」という同じ名を持つが、メカニカルクロノグラフは、1964年に東京で開催された世界的な一大スポーツ競技大会の公式計時として使用されたストップウォッチのノウハウが生かされた、69年の初代スピードタイマーが搭載するキャリバー6139の設計思想を受け継ぐキャリバー8R46を搭載。だが、外装は64年の公式ストップウォッチとクラウン クロノグラフをモチーフとしている。
他方、ソーラークロノグラフは、初代スピードタイマーのデザインを継承し、先人たちの情熱と偉業が腕時計の外装を見るだけで伝わるような物語性を重視したという。実際、ソーラークォーツムーブメントを搭載するため、直径39㎜、厚さ13.3㎜という当時を思わせるクラシカルでコンパクトなサイズをかなえている。
まったく異なる個性を持つふたつのクロノグラフをラインナップするセイコープロスペックスの新コレクション。だが、そこにはセイコーが脈々と受け継いできた「正確な時を計る」というDNAが、同社が培ってきたスポーツ計時の伝統と実績を具現化してきた歴史的な名機を最新の技術で再現することで、見事なまでに現代に発現しているのだ。
歴史を巧みに再解釈した現代版スピードタイマー
1969年発売の初代スピードタイマーの造形から着想したデザインを持つ。ソーラークォーツムーブメントを搭載するため、ケース径39mmとコンパクトにまとめられ、当時のサイズ感を再現。カーブサファイアクリスタル製風防を装備することで、クラシカルな中にスポーティーさを盛り込んだ。光発電クォーツ(Cal.V192)。平均月差±15秒。SS(直径39mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。7万4800円。
左からRef.SBDL091、Ref.SBDL089、Ref.SBDL087。光発電クォーツ(Cal.V192)。平均月差±15秒。SS(直径39mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。各7万4800円。
1969 スピードタイマー
1969年、世界に先駆けて発売された自動巻きクロノグラフである初代「スピードタイマー」。64年の国産初となる「クラウンクロノグラフ」に次いで登場。動力伝達に垂直クラッチを採用する世界初の自動巻きクロノグラフである。垂直クラッチの採用によってスタート/ストップ時の針飛びを抑えられるうえに、耐衝撃性も高められた。
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