ムーンフェイズはとても人気のある機構だ。一般的なムーンフェイズは、月が満ち欠けする周期を29.5日として、その2倍の59歯のディスクに2つの月を描いて表示する。これは月の周期の平均が約29.53日であることに基づいている。18世紀にアブラアン-ルイ・ブレゲも採用したムーンフェイズのスタンダードだ。
ところが29.53日=29日12時間44分2.88秒であり、つまり1周期で約44分が切り捨てられていることになる。これが累積すると約3年で1日の誤差になる。これを「わずかな差」ということはできる。実際、この差に気付くことは難しい。それだから多くのムーンフェイズが、この59歯を採用しているのである。しかし、もちろん、より高精度を目指したものもある。近年では122年や125年で1日の誤差というのが主流になりつつあり、1000年以上で1日という高精度も登場している。
ここではそんなさまざまなムーンフェイズのなかから名作と呼べるモデルを5本厳選。秋の夜長にホンモノの月を愛でつつ、ムーンフェイズを愉しむ、なぁんていうのはいかがだろうか。
エルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」
直径43mm
自動巻き(Cal.H1837)
28石
2万8800振動/時
3気圧防水
WG
世界限定100本
320万円(税別)
今年のジュネーブで発表された話題作。12時位置に南半球、6時位置に北半球の月を配置。時刻表示と日付表示の2つのインダイヤルが59日でダイヤルを1周することで、2つの月を満ち欠けさせるダブルムーンフェイズモデル。月はMOPで、南半球にはペガサスが描かれ、北半球は実際の月面。ダイヤルがメテオライト製とアベンチュリン製の2モデルがあり各世界限定100本。
H.モーザー「エンデバー・パーペチュアル・ムーン」
直径42mm
手巻き(Cal.HMC 801)
28石
1万8000振動/時
日常生活防水
RG
世界限定50本
425万円(税別)
1027年で1日の誤差というトップクラスの超高精度ムーンフェイズ。しかも通常のムーンフェイズが1日に1回=1送りだけディスクを動かすのに対し、このムーンフェイズは時針と連動して常に動き続け、実際の月の運行と1日あたり0.23秒のずれしかない。これはその最新作でダイヤルになにも記さない「コンセプト」の仕様がムーンフェイズをいっそう際立たせている。
A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1・ムーンフェイズ」
直径38.5mm
手巻き(Cal.L121.3)
47石
2万1600振動/時
3気圧防水
PG
468万円(税別)
A.ランゲ&ゾーネのほぼすべてのムーンフェイズは122.6年で1日の誤差しか生じず、これは月の周期を99.998パーセントの高精度で再現していることになる。このムーンフェイズはその高精度に加え、月の描かれたディスクと別に24時間で1回転する空のディスクを設けているのが特徴。日中は青空、夜は星空と、デイ&ナイト表示としても機能するようになっている。
IWC「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」
直径44.2mm
自動巻き(Cal.52615)
54石
2万8800振動/時
3気圧防水
RG
407万円(税別)
1985年に発表されたIWC「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」は永久カレンダーの歴史的大傑作。その革新性のひとつが122年で1日の誤差という高精度ムーンフェイズであった。「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」はその進化版で577.5年で1日の誤差しかない超高精度を誇る。北半球と南半球のそれぞれで見た月を鏡像のように表示するダブルムーンフェイズも大きな魅力だ。
ブランパン「ヴィルレ パーペチュアルカレンダー 8デイズ」
直径42mm
自動巻き(Cal.5939A)
42石
2万8800振動/時
30m防水
RG
578万円(税別)
ブランパンは、機械式しかつくらない、丸型しかつくらない、という純正統のクラシックさが広く知られるスイスきっての名門。そしてブランパンのムーンフェイズは、月に顔が描かれている、というクラシックなスタイルが大きなチャームポイントだ。これは永久カレンダーで、8日間のロングパワーリザーブが特徴。グラン・フー・エナメルのダイヤルの美しさも素晴らしい。