「時計界の未来は、おそらく明るい」。時計ジャーナリスト髙木教雄が選ぶ【2024年新作時計ベスト5】

FEATURE2024年新作時計
2024.04.20

ジャーナリストをはじめ、時計業界の著名人たちに2024年に発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は時計ジャーナリストであり、『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ』(世界文化社)の著者としても知られる髙木教雄が選んだ、5本の傑作を紹介する。


1位:カルティエ「トーチュ モノプッシャー クロノグラフ」

カルティエ トーチュ クロノグラフ

カルティエ「プリヴェ トーチュ モノプッシャークロノグラフ」
手巻き(Cal.1928MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。Ptケース(縦43.7×横34.8mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。世界限定各200本。897万6000円(税込み)。2024年10月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00

かつてCPCPにあった頃に憧れたモデルの復活に、大感激。ケースと同じフォルムに設えられたCal.1928 MCは、華奢なハンマーやレバーの取り回しが実にエレガントで、美しい。水平クラッチ式も、個人的な好みに合う。


2位:チューダー「ブラックベイ 58 GMT」

チューダー ブラックベイ GMT

チューダー「ブラックベイ 58 GMT」Ref.M7939G1A0NRU-0001
自動巻き(Cal.MT5450-U)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.8mm)。200m防水。64万3500円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570

小ぶりな“58”ケース、コークベゼルのGMT、マスター クロノメーター、ブレスレット仕様でも64万円台。これ以上、何を望むものがあるだろうか? 時計好きの琴線に触れまくる1本。チューダーの値付けは、今年も不可解。


3位:ショパール「L.U.C. XPS フォレストグリーン」

ショパール「L.U.C XPS フォレスト グリーン」Ref.168629-3001

ショパール「L.U.C XPS フォレスト グリーン」Ref.168629-3001
自動巻き(Cal.L.U.C 96.12-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティールケース(直径40mm、厚さ7.2mm)。30m防水。174万9000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922

ノンデイトのセクターダイヤルを見た瞬間、「好き!」と叫んだ。昨年登場した“XPS”も好みドンピシャだったが、あまりに高額過ぎた。しかしこの新作の価格は、なんとか手が出せる範囲内。グリーンの色味も上品である。


4位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション」Ref.SLGW003

グランドセイコー SLGW003

グランドセイコー「エボリューション9 コレクション 手巻メカニカルハイビート36000 80 Hours モデル」Ref.SLGW003
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。3気圧防水。145万2000円(税込み)。2024年8月9日(金)発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617

日本での展示会では側だけだったが、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでは新型ムーブメントが入った状態で操作できた。白眉は巻き心地。軽やかにリュウズが回り、カチカチとした音も実に心地いいのだ。つい巻き上げたくなる時計って、ちょっと危険。


5位:パルミジャーニ・フルリエ「トリック プティ・セコンド」

パルミジャーニ・フルリエ 2024年新作

パルミジャーニ・フルリエ「トリック プティ・セコンド」
手巻き(Cal.780)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGケース(直径40.6mm、厚さ8.8mm)。709万5000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com

トンダ PFのデザインコードを、クラシックに落とし込んでみせたのが見事。古典の技法で仕上げた18金製ダイヤルは、極めて上質である。手巻きの薄型ムーブメントも好みに合うが、これまた18金製だから高額なのが玉に瑕。


総評

 楽しかった!──W&Wの取材を終えての、率直な感想である。取材スケジュールは、昨年よりもかなり過密であった。しかし行く先々のブランドで、必ず欲しいと思える新作に出会えたのだ。疲れを感じることなく、心から楽しめた。素材や仕上げ、色付けのさまざまな技法の工夫によって、昨年以上に表現が豊かになってた。

 機構においても、興味深いコンプリケーションがいくつも登場し、パテントが切れたセントラルトゥールビヨンが、ちょっとしたトレンドとなっていたのも面白かった。中でもカルティエ、シャネル、エルメスといった非時計専業ブランドのアプローチは、古典、オートマタ、超複雑時計などバリエーション豊かかつユニークで、個人的なトップ5にすべては入らなかったが、10位以内ならどのブランドの新作も入れたと思う。時計専業ブランドも真摯に製作に取り組み、奇をてらうことなく上質でエレガントな新作を届けてくれた。

 全体的には、“ラグスポ”一辺倒からクラシックにグッと寄った印象。そして多くのブランドが、より高級化を目指していた。質の良い高級機の登場は、喜ばしいことだが、金相場の高騰と円安とが価格に影を落としているのは、致し方なし。そうした中で、プライスレスな付加価値の創出が、今後の課題になるであろう。

 一般入場者も、昨年以上に大盛況であった。ラフなファッションの若者が、新作時計に見入っている姿を何度も見かけた。時計界の未来は、おそらく明るい。



選者のプロフィール

髙木教雄

時計ジャーナリスト。工学部で培った知見と、圧倒的な取材経験によって裏付けされた原稿が魅力的な業界随一の理論派である。その豊富な知識と鋭い視点で切り込んでいく時計専門誌向けの記事から、一般誌での時計特集、新聞での初心者向け記事など、活躍のフィールドは幅広い。世界文化社から機械式時計の入門書、『腕時計のしくみ』『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』を上梓。


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